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第17話 ※

 発情期(ヒート)の周期が来そうなので、希は発情期休暇を取ることにした。学校もバイトも休みだ。外出もできないのでスマホと読書とゲームくらいしかすることがない。そして霞には学校とバイトがあるので会えない。  本当は(つがい)(あるいはその候補)のためにαも休暇を取れるのだが、霞の生活に支障が出ないよう、それは希に発情期が来てから取ってもらうことにしていた。そして発情期前でフェロモン量が増えている今、直接会うことはできない。突発的なものはともかく、普通発情期の周辺は必要最低限の薬しか飲んではいけないことになっている。フェロモンを抑える薬はご法度だ。  ちなみに今希は実家の離れにいる。やはり発情期の時に過ごすための場所として作られた建物だ。いくら設備がきちんとしていようと、親と同じ屋根の下で発情期セックスをするのはかなり気が引ける。というわけで希はここに色々持ち込んで篭城することにしたのである。  霞がいなくて寂しいかというとそこまででもない。いや寂しいこともあるが、今の世の中は便利なのでメールも電話もできる。そして発情期が来たら霞がすぐに来られるようにもしてあることを思えばなんとかごまかせる。ごまかせないのは欲求不満だ。やはり文明の利器で擬似プレイや擬似セックスも出来なくもないが、それは何かが違う。生身の霞じゃないと足りない。発情期前にセックスしたのがよくなかったのだろうか、でもあれは楽しかったしとその記憶をおかずにオナニーしていると。  来た。体がぶわりと熱くなり、後ろが濡れるのを感じる。しかし今までのような訳のわからない狂いそうな感覚とは違い、その熱は1つのみを向いている。それになぜか安堵と焦燥を同時に覚える。あのαなら、この隙間を埋めてくれる。でもあのαでないとだめだ。  震える手で霞に電話をかける。何度か操作を間違えかけた。かかるまでがもどかしい。  電話に出た声はすぐに目的を察知した。 「来たんですね?」 「うん、来た。早く、」 「はい、すぐ向かいます」  それだけ言うと電話は切れた。途端に喪失感が襲ってくるが、走っているのだろうから無理は言えない。次いで壁のボタンを押す。そうすることで親にも大学近くで待機させてある車にも連絡が行く。  それからはもう熱との戦いだ。「俺には理性がある」と繰り返し呟きながらよろよろと歩き、部屋の冷蔵庫から飲み物と温めなくても食べられる軽食を取り出し、水分補給ついでに発情期用の避妊薬も飲む。飲んだことがわかるようにガラも置いておく。これだけのことに数分かかった。  服がベトベトで気持ち悪くなって全部脱いだ。チョーカーも今のうちに取り外して机に投げ捨てた。どうせもうここに入ってくるのは霞だけだ。その後ベッドに仰向けに倒れてから1分ほど意識が飛んだ。  目を覚まして気づく。そうだ、巣を作ってαを迎えなければ。霞が毎日取り替えに来ていた鞄を開けて中身をベッドにぶちまける。シーツ、枕、シャツ、ズボン…それらを積み重ねて巣を作る。霞のフェロモンが充満するはずの巣に入ってみたが、希の体を覆うほどにはならなかった。自分の体が今だけでも小さくならないだろうかと恨めしく思うくらいには既に頭が湧いていた。あと単純にフェロモンが足りない。本物が欲しい。  それにしても体が熱い。特に性器(アナル)は燃えるようだ。しかしこれはあのαじゃないとだめだ。「やっぱなんか違うよな」と思ってアダルトグッズを持ってこなかった自分は正しかったが、それはそれとして指で中を弄るのは止められない。前を触っても絶対満足できないと分かっているのにシーツにペニスを擦り付けるのも止められない。もう一つの手で乳首を弄ったが、足りないので乳首もシーツに擦り付けることにして指を最初に会った時のように口に入れた。違う、こんな無骨で大きな指じゃなかった。まだか、まだか、まだか。  今すぐにでも外に飛び出して行きたかったがこの部屋は発情期中のΩの理性では内側から開けられないような仕組みになっている。それにもう余裕がなさすぎて動けない。はやく、 「っお待たせしました!」  バン、と扉が開いて霞が勢いよく部屋に入ってきた。 「う、わ…」  よく考えたら俺今すごい格好だな、とどこかにいる冷静な自分が言ったが、だからといって止めることも出来ない。 「はや、く、」  思った以上にかすれて甘えた声が出た。一瞬後、霞が苛立ったように服を脱ぐ。同時に霞のフェロモンも感じた。草原を吹き抜ける風の匂いとイメージが浮かび、それなのに体がカッと熱くなる。よかった。自分のフェロモンに誘われてくれたんだ。 「いつもこんな感じなんですか」 「ちがう、はじめて、そんなのいいから、」 「巣を作ってくれたのは嬉しいですけど邪魔ですねこれ」 「やだ、こわさないで」 「ええ…僕が入ればいいんですか」 「はいって、かすみのために、つくったから」 「うわ、難しい…これでいいですか」 「うん、よかったあ、かすみにぴったり」 「そりゃあ僕のですからね…」 「うまくつくったから、ほめて」 「はいはい、いい子(G o o d b o y)」 「んぅ~っ!」 「えっ今のでイったんですか?エッロ…もういいですか?入れて」 「うん、おれをはらませて、せーえきいっぱいいれて」  避妊薬を飲んだことも忘れて、希は精一杯霞を誘う。 「じゃあお望み通り、にっ」 「ひゃ、あぁ~っ!」  ぐしょ濡れの後ろは予想以上に簡単に霞のものを飲み込んだ。とんでもない快楽以上の、どうしようもなく欠けていたものが勢いよく埋められていく多幸感。一突きだけで希は何度も絶頂し、目の前にチカチカと星が飛んだ。  でもまだだ、まだ意識が残っているうちに、やらなければいけないことがある。  これから、自分を霞のΩにしてもらわなければ。そして、霞を自分のαにしなくては。 「かすみ、かんで、ここ、いまっ」 「…本当にいいんですね?」 「なにいってんだよ、いまかめっていってんだろ!」 「もうほんとにすぐ泣くんだから…じゃあ、」  僕のものになってね、と鼓膜を震わせたあと、歯が突き立て、しっかりと食い込み、  ぷちり。 「ひぎゃ!?は、あぁ…」  あまりの痛みに涙が出た。しかしそれも快感に置き換わる。このαが与えてくれるものは全部気持ちいいから。首筋から何かが流れ込んできて、細胞一つ一つに自分のものだと刻みこんでいく。それがひどく心地よくて、希は意識を手放した。

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