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第2話
京一が目を覚ましたのは日が沈む前の頃だった。
昼食を食べてから、再びスマホを見ていた気がするが、どうやら寝落ちしてしまったらしい。
顔の横にあったスマホを見ると、数分前から何件か通知が入っている。「あいつ」からだった。
京一が目を擦りながら見てみると、そんなの嘘だから止めておけ、という内容のメールだった。
「嘘かどうかを確かめるために検証するんだっつーの。」
京一は身体を起こし、例の都市伝説サイトを検索した。
…が、京一が今日見たはずの海の都市伝説がない。
「はぁ…?なんで…投稿主が削除したのか?」
京一が目を凝らしてくまなくサイト内を探してみても、やはり無い。
京一がスマホを睨んでいると、電話がかかってきた。「あいつ」からだ。
「もしも…」
「京ちゃん!夜の海に入るだなんて危ないこと、したら駄目だよ!」
「うるせー!寝起きだからでかい声だすな。」
「ああ、昼寝してたんだ。メールの返信が来ないから。いつもすぐに返信くれるのに。」
「そーだよ。…じゃあ瀬良(せら)は行かねぇんだな?検証に。」
「当たり前だよ。そんなの嘘に決まってる。京ちゃんも行っちゃ駄目だからね。」
京一は、電話から車の走る音とビニール袋が揺れる音を聞いた。
瀬良は現在、帰路の途中である。
塾帰りの買い物中に、京一からのメールを見て、店を出た後すぐに電話をかけたのだった。
金色の髪が、つよく風にふかれて煌めく。
瀬良が歩く度に、ビニール袋の音が鳴る。
袋の中には、牛乳とじゃがいもが入っていた。
「嘘かどうかを検証するために行くんだろ。いーよ、俺は1人ででも検証に行くから。つーか京ちゃんって言うな。ガキみたいだろ。」
「あぁごめん、動揺してて。でも本当に駄目だよ、危ない。それに、検索してみたけど出てこなかったよ。京一の勘違いなんじゃない?」
瀬良のメガネのフレームが、店から漏れた光に照らされ、ツルリと光った。
「勘違いなんかじゃない。俺は確かに見たんだよ。安遠がどうのって。投稿者が削除したのかも…でも、瀬良に送った文章が書いてあったんだ。」
「…とにかく夜の海は危ないよ、」
「ちょっと足入れて願い事を言うだけだろ。今回はやけに突っかかってくるな?いつも俺の都市伝説の話はテキトーに流すくせに。」
京一は口を尖らせて言った。
「それは……ううん、今までも京一は都市伝説とかを検証しようとしてきたけど、夜に何かするだなんて初めてじゃないか。」
「別にいいだろ、」
「怖かったんでしょ、夜にするのは。京一ってオカルト好きとか謳いながら怖がりだもんね…?」
顔は見えないが、瀬良が得意気にしているのが京一には容易に想像できた。
フフン。
京一は顔が熱くなるのを感じた。
「そんなんじゃない!とにかく、俺は海の都市伝説を…」
「わっ」
「は?瀬良?大丈夫か?」
「う、うん、なんとかこけずにすんだ。」
どうやら瀬良が何かに躓いたらしい。
「…ちゃんと前と下を見て歩けよ、お前は昔からよく躓くんだから。前と下だ。」
「うん。前と下。」
「そうだ。前と下。」
京一はウンウンと頷いた。
「ってそうじゃなくて、そんな都市伝説誰かのイタズラで書かれたものだろう。すぐに削除されるなんて。」
「いーんだよ、とにかく、俺は行く!きるぞ。」
「ま、待って京一!分かった。僕も行くよ、京一を1人で行かせるのは心配だし。」
「ふーん。行くのか。あとさっき躓いて転びそうになったやつに心配されたくねえ。」
「それは関係ないでしょ…それに…僕にも責任があるしね…」
「責任?」
「あっ……、えっと……京一を…そんな危ないことをする子に育てた責任…?」
京一が耳にあてたスマホから、ふふ、と瀬良の笑い声が聞こえる。
「バカ。また予定連絡する。」
横目でスマホを睨みつけながら言った。
プツンッ…
…瀬良の野郎、俺のこと小さい子供だとでも思ってるんじゃないか。
……まあ、でも。ふうん。瀬良も行くんだ。
京一はベッドにボフンと倒れた。
短い黒髪がやわらかく広がる。
空はすっかりオレンジ色に染まっていた。
「 …待ち合わせはいつもの激安でいいよな、」
激安とは、京一家と瀬良家のちょうど真ん中あたりにあるスーパーのことである。別に激安スーパーという名前でもないし、激安でもない。
ただただ「ゲキヤス」という語感をなぜか幼い頃2人が気に入っていたため、待ち合わせ場所のスーパーに、激安という名前を付けたのだ。
「京一、ご飯よ〜!」
下の階から京一の母が呼ぶ。夕食ができたのだ。
京一はいつもより明るい声音で、はーいと言った。
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