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楽園 2

キヨハラとは3年で同じクラスになったけれど、親しく話すようになった随分たってからだ。 キヨハラは整った顔に派手な見た目で、女の子達から人気はあっても、学校の先生達からは嫌われていて、少年たちからは遠ざけられていた。 先生たちが嫌ってる? いや、取り扱いに困ってる、ということだろう。 キヨハラは集団の中で規律正しく生きていけるタイプじゃ無かった。 人の邪魔するタイプではなかったけれど、授業に出てこないこともあったし、授業中も関心無さそうにノートすらとっていない。 でも。 成績は常に上位にいた。 先生達には扱いにくい。 誰とも群れないキヨハラは、休み時間も一人でいて、必要以上は誰とも口をきこうとしなかった。 それは自分達を小馬鹿にしてる、と少年達には受け取れもした。 喧嘩が強いらしい、という根拠のない噂と、確かに大きな身体とか、たまに体育で何気にみせる身体能力とかがなければ、キヨハラを気に入らないからと囲んで脅す連中もいたかもしれない。 「なんだよアイツ」 「感じ悪」 少年達はブツブツ言い、女の子達はそんなキヨハラがクールだと遠巻きに騒いでいた。 キヨハラが他校の女子と次から次へと付き合っている、というのも少年達の反感を買った。 キヨハラをわざわざ迎えにやってくる女の子は、車に乗ってやってくる女子大生から、お嬢様女子校の子から、派手目の他校生まで幅広く、それも次から次へと変わっていった。 もちろん、キヨハラに付き合ってほしいと突撃する、自校の女子生徒もいたのだけど、 「同じ学校はダルい」 とキヨハラに断られると決まっていた。 醒めた目をした、不良で、女タラシ。 でも成績優秀のキヨハラと、 とにかく元気。 元気なだけが取り柄の、弱小ボクシング部でモテない青春燃焼中のタクミでは全く絡みがなかった。 キヨハラはタクミには通り過ぎるだけの人で。 噂に「へぇ」とか思うくらいで。 キヨハラはタクミの存在を気にもしてなかっただろう、とタクミは思う。 タクミは部活に燃える、よくいる高校生男子の一人だったからだ。 交わるところなどなかった。 同じクラスにいても、プリントを渡す時とか、ちょっとした用事の時に、「キヨハラ君」と呼びかけはしても、それだけ。 それだけだった。 何にも思っていなかった。 ボクシングに夢中だったし、常に追試に追われていたし。 それどころじゃなかった。 でも、最後の大会であっさり負けて。 高校ボクシングが終わって。 部活を引退して。 胸にボッカリ穴が空いてた頃、そう、何故かタクミはキヨハラと話すようになったのだ。 そう。 キヨハラは。 3年誰も彼もを適当にあしらうだけだったキヨハラは。 何故かタクミと。 なんでだか、タクミだけと。 マトモに話をするようになったのだ。 そう、なったのだった。

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