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楽園 4

キヨハラに泣いてるところを見つかった。 しかも子供のように大声で泣いていたのを。 でも、急に涙は止まらなくて。 タクミは真っ赤になり、でも涙は止まらなくて。 鮮やかに染まる夕陽の中で、タクミとキヨハラは立ち尽くしていた。 キヨハラは困った顔をしていて。 でも、目をそらそうとはしなくて。 キヨハラの手がそっと伸ばされた。 壊れそうなモノへと手を伸ばすかのように。 キヨハラはタクミの肘の部分をそっと掴んだ。 決して強くは握らない、優しい優しい力で。 それは優しい弱い力だった。 なのにタクミの身体はキヨハラのすぐ近くに引き寄せられた。 キヨハラの目がタクミをじっと見てるから、それが引力だったのかもしれない。 キヨハラは抱きしめる程近くにタクミを引き寄せると、タクミの肩と腰にそっと手をまわした。 キヨハラの手の力は僅かだったのに、タクミはキヨハラと隣りあって河原に腰かけていた。 キヨハラ。の手は魔法のように、タクミの身体をコントロールする。 いや、キヨハラのその目が。 その困ったような。 でも。 見つめることをやめない目の優しさが。 強さが。 タクミの身体をコントロールするのだ。 黙って泣いてるタクミの隣りにキヨハラは座っていた。 古くからの友達みたいに肩に腕をまわして。 キヨハラの腕は暖かくて。 タクミは涙を止められない。 キヨハラは何も言わなかった。 それを優しさに感じてしまった。 マトモに話をしたこともないクラスメイトに肩を抱かれて泣いているのがおかしいとは思った。 でも。 キヨハラの腕も目も優しいから。 涙が止まらなくて。 「最後の・・・試合だった・・・オレ・・・なんにも出来な・・・く」 キヨハラにタクミは言っていた。 苦楽を共にしてきた仲間達にさえ言えなかった、弱音を悔しさを。 「そっか」 キヨハラの声は優しかった。 肩に回されたキヨハラの腕に少し力が入った。 幼い頃に抱きしめられたことを思い出す。 泣いたタクミを父親や母親が抱きしめてくれたこと。 でもタクミは歯を食いしばって耐えることを覚えた。 父親が出ていって、母親がたった1人で育ててくれたから、母親を心配させないように。 キヨハラの腕は。 タクミが長く忘れていた温もりだった。 「オレ・・・頑張った・・・てたの・・・に」 情けない感情が止まらなくなって、流れ出てしまう。 こんなのはタクミはしたくないこと。 でも、何故か止まらない。 「そっか」 キヨハラがもっと優しい声で言った。 キヨハラの手がタクミの頭を自分の肩に乗せるように誘導する。 タクミの肩を抱き、自分の肩にタクミの頭をのせて、キヨハラの顔が至近距離でタクミを覗き込む。 その目の優しさ。 そして。 コイツ本当に顔が良いな。 タクミはそう思った。 それはいつもキヨハラを見た時に思うことだったけれど 整った、しかし血の通ってないように見えていた顔は、今は優しさで縁取られていた。 その目から流れ出る暖かさに、タクミの涙が止まらなくなる。 タクミの涙はキヨハラの肩に流れ落ちる。 また声を上げて泣くタクミを、キヨハラはただ黙って肩を抱き、優しい目で見つめていた。 その目は言葉より優しく。 タクミを慰めてくれたのだった。

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