5 / 56

楽園 5

キヨハラと親しくなったのはこの日から。 この日、キヨハラは涙が止まるまでタクミの傍にいてくれ、そして、タクミの家までタクミを送ってくれたのだ。 タクミの目が泣きすぎて腫れて、それじゃ前が見えないだろ、って言って。 途中のコンビニでちょっと待ってろと、目を冷すための冷たいジュースを買ってきてくれたりもした。 二本もくれた。 タクミは両目を冷やして歩いた。 転けないようにキヨハラがタクミの肘を掴んで引いて歩いてくれてた。 明日の朝、夜遅く帰ってくる母親と顔を合わすまでにはマシになってないといけないだろ、よく冷やせと。 キヨハラは言った。 母親にだけは心配かけたくない、そんな気持ちのことまで話してしまったのか、とタクミは自分に呆れたけれど、まあいいや、と思った。 誰にも言ったことのないことを話してしまったけれど、でも。 キヨハラならいいや、と思った。 冷たいはずの同級生は。 信じられないくらい優しい男だった。 日が暮れて、すっかり暗い道を、キヨハラと並んで歩くのは心地良かった。 家の前でキヨハラは言った。 「おやすみ。また明日」 いつの間にか持ってたタクミのリュックを渡しながら。 これはモテるよな、とタクミは思った。 荷物を持ったことさえ気づかせない何気なさ。 そして、また明日、というキヨハラの言葉を噛み締める。 ああ、そうか。 明日は月曜日。 また学校で会えるんだ。 なんだかタクミは嬉しくなった。 泣き腫らしてブサイクな顔でタクミは笑った。 ブサイクで笑える顔だったからだろうか、キヨハラもタクミの笑顔に笑った。 笑うと顔がもっと優しくなった。 こんな柔らかい表情をするヤツだったんだ。 タクミの胸が何故か痛んだ。 別になにも。 もう、泣いてもいないのに。 「また明日!!」 タクミも言って手を振って、家のドアを開けた。 家に入る前にどうしてもキヨハラをもう一度見たくて、振り返ったら、歩き出していると思ってたキヨハラは、まだ立ったままタクミを見てた。 また手を振った。 キヨハラも手を振った。 なぜだかタクミは笑ってて。キヨハラも、笑ってたのがわかった。 タクミはその晩。 あんなに苦しかったはずなのに、安らかに眠れた。 苦しいのは、まだ苦しい。 負けたのは辛い。 それはずっとずっと残る。 それはそう。 でも。 新しい優しい友人と出会えたことは。 とてもとても。 嬉しかったのだ。 キヨハラの優しさはタクミの心を確かに癒してくれたのだった。

ともだちにシェアしよう!