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楽園 7

キヨハラと仲良くなった。 周囲に驚かれた。 誰とも群れないクール男子なキヨハラと、元気な熱血部活男子タクミの組み合わせだ。 タイプが違いすぎた。 「アイツと何の話するワケ?」 とか聞かれたけれど、キヨハラはタクミが話すどんなことも楽しそうに聞いてくれてた。 それにポツリと面白いことを言ってきたりして。 結構二人で笑いあってた。 とにかくタクミはキヨハラといるのは楽しかった。 「いいヤツなんだよ、ホントは!!」 タクミは熱弁した。 「へええ・・・そうかな・・・」 タクミの友人達はそう言ってタクミが熱く説く、キヨハラいいヤツ説には懐疑的だったし、キヨハラもタクミが友人といる時は近寄ってこようとはしなかった。 キヨハラは人見知りなのだ、とタクミは結論づけた。 友人達は「そんなわけないだろ」と首を振る。 気をつけろ、アイツが良いやつなわけない、と。 だが、彼らは知らないだけだ。 タクミはそう思う。 だってキヨハラはタクミといる時、本当に優しかった。 目が声が、表情が。 たまに伸ばされる指が。 どこまでも優しくて。 タクミはキヨハラの前だとなんだか舞い上がってしまう。 キヨハラの見つめる優しい目と、声と笑顔に、吸い込まれてしまう。 なんだか浮かれて。 フワフワして。 胸が暖かくてたまらない。 ずっとずっと嬉しくて、なんだかずっと笑ってて。 家に帰ってもキヨハラのことを考えていた。 こんなの初めてだった。 毎朝キヨハラと一緒に学校に行くようになってた。 なんなら母親と3人で朝ごはんを食べることもあった。 キヨハラはタクミの母親の前では礼儀正しくて。 学校の先生達の前の態度の悪さとはまるでちがった。 そして部活も引退したので帰りも一緒に帰るようになった。 元々仲間達とは家の方向が違っていて、一人で帰っていたから、 誰かと帰る帰り道は楽しかった。 タクミは高校を卒業したら、知り合いの工房に就職することになってた。 勉強は苦手なタクミは職人になるつもりだった。 根性と根気だけはあるのを、工房の社長に気に入られたのだ。 社長はタクミの部活の先輩の祖父で、ボクシングが大好きで、先輩がいなくなっても試合を観にきていたのだ。 試合での根性が気に入ったと、声をかけられて、そこから就職まで繋がったのだ。 流石に最後の試合に関しては社長もタクミを気の毒がっていたが、タクミへの評価は変わらなかった。 タクミは早く稼げるようになって、母親を自分の養育の義務から解放してやりたかった。 だから働けるのが嬉しかった。 成績優秀なキヨハラは大学へ進むと分かってた。 「職場の寮は市内だし、土日は休みなんだろ?会おうよ」 キヨハラから言ってくれた。 「遊ぼ!!遊びにいこ!!」 タクミは嬉しくなった。 卒業しても一緒にいられる。 「卒業する前にも遊ぼうよ。今度土曜日どう?」 早口でキヨハラに言われた。 なんだかキヨハラが緊張していて、それの意味が分からなかった。 タクミと遊びに行くだけの話をするのにでなんで緊張? 「でもお前受験生・・・」 タクミが心配そうにいうと、キヨハラは珍しくタクミの言葉を遮った。 「問題ないから!!全然!!」 そういうキヨハラの指先がきゅっと握り込まれていて、そこらまでキヨハラはタクミも遊びたいのか、とタクミは思った。 受験勉強でストレスが溜まって、解消しないとダメなのかもな、タクミはそう解釈した。 なら、協力しないと。 「遊ぼうぜ!!」 タクミは楽しくなってきていた。 キヨハラと休みを過ごす。 きっと楽しい。 キヨハラが笑った。 キヨハラもとてもとても嬉しそうで。 タクミはさらに幸せになった。 いつものように家の前で別れる時、キヨハラの大きな身体がタクミの小柄な背中を一瞬そっと包みこんだ。 背中から抱きしめられた、と分かる前にキヨハラは離れて、笑って手を振っていた。 何も無かったかのように。 タクミは何故か、友達がふざけて背中から抱きついてきただけのことなのに何故か、心臓を壊れるくらいに鳴らしながら、それでも、なにも無かったかのようにキヨハラに手を振って家に入った。 ドアを閉めて玄関で座りこむ。 確かに。 キヨハラは。 タクミを抱きしめた。 ふざけた、だけ。 なのに。 心臓が破裂しそうなくらい痛くて、指先まで震えてて。 「わかんない・・・」 タクミは混乱していて。 「キヨハラ・・・キヨハラ・・・」 でも何故かその名前を繰り返していた。

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