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楽園 10

タクミの手を引き、キヨハラは歩く。 当たり前みたいに。 タクミはキスされたことに呆然としている。 キス。 キス。 キヨハラの長いまつ毛。 柔らかい唇。 熱い息。 唇が濡れてたこと。 動物園から駅まで手を繋いで来てしまった。 キヨハラは人が多い駅前についたらそっと手をはなして、代わりに肩を組む。 ふざけてるみたいな笑顔で笑われた。 タクミは上手く笑えない。 オタオタしてしまう キヨハラに話かけられても、なんだか答えられなくて。 キヨハラが回した腕に全ての意識がいってしまって。 キヨハラにエミューの卵の色について何か空回りした事を電車の中で言っていた気がする。 「ん?」 そう笑いながら話を聞くキヨハラの顔が近すぎて。 なんどもなんども舌がもつれた 親しげに肩に回された腕。 駅から出て、いつもの家への川原の道を歩く間も、キヨハラは当たり前のように自分の傘の中にタクミを肩を抱いたまま入れて歩く。 キヨハラが何か話しかけてきてるけどわからない。 濡れた身体に、キヨハラの身体が触れる部分だけが、熱く感じられて仕方ない。 顔が近い。 綺麗なキヨハラの顔。 声。 キス キス なぜ キス キヨハラの体温 タクミの中で思考と感覚と記憶がミキサーにかけれれたみたいにくるくる回ってぐちゃぐちゃになる。 それがタクミの頭の中を限界まで押し潰してきて。 タクミは立ち止まってしまった。 「無理!!もう無理だから!!!」 タクミは混乱が限界に達して錯乱した。 顔を覆って叫んでいた。 もう無理。 何が 無理なのか分からないけど無理。 無理としか思えなかったしそう繰り返し叫けんでいた。 立ち尽くして、真っ赤になって、顔を隠して震えているタクミに、何故かキヨハラが息を呑んだ。 「クソっ可愛い。可愛すぎんだろ」 キヨハラの声がして、キヨハラは傘を捨ててタクミを抱きしめていた。 冷たい雨がタクミとキヨハラの身体を打つ。 なのにタクミの身体は熱かった。 キヨハラと触れ合うところが濡れた服の感触しかないはずなのに熱かった。 「タクミ・・・好き」 キヨハラが囁いた。 雨音よりも優しい声で。 その声にタクミの全身が反応してしまった。 電気でも流れたようにビクンと痙攣した。 タクミは震えてた。 どんな相手でも立ち向かうボクサーなのに。 キヨハラの言葉と身体に怯えてた。 怖い。 怖くてたまらない。 なのに。 離れられないほど惹き付けられる。 「可愛いすぎるだろ、こんなの・・・」 キヨハラが呻くように言う。 「顔、見せて」 囁かれる。 いやいやするみたいに顔を両手で覆ったまま首をふる。 キヨハラが小さく笑ったのがわかった。 「キスさせて」 顔を覆うタクミの指にキヨハラの手が当てられ、キヨハラが甘く強請る。 キス。 キスってさっきの? やはりあれはキス? タクミは混乱してしきってて。 でも、キヨハラの力は弱かったのに、タクミの手は簡単にキヨハラの指に顔から離された。 冷たい雨が顔にあたる。 覗きこむキヨハラの顔からしたたる雨もタクミの頬に落ちる。 雨のせいでキヨハラが泣いてるようにも見えた。 でも、キヨハラは笑ってて。 それも、タクミの好きな優しい笑顔で。 顎を掴まれ顔を上向きにされても。 タクミは抵抗しなかったし、キヨハラの整った顔が雨に縁取られるのを、綺麗だな、と見つめていた。 でも。 今度はちゃんと分かってた。 分かってて。 「口を開けて」 とキヨハラに言われて言われるがまま、唇を開き、キヨハラの唇が触れるのを待った。 キヨハラのキスは。 今度は触れるだけでは終わらなかった。 他人の舌の味を知り、それにが舌と擦れ合う感覚にタクミは翻弄された。 舌を吸われ、甘く噛まれて、なぜかタクミの身体が痙攣した。 ぐちゃぐちゃになってた頭の中が、甘いゼリーのようになっていく。 呼吸を奪われて苦しいのに。 口の中をキヨハラは蹂躙してくるのに。 激しいキスなのに。 タクミはキヨハラにしがみつき、そのキスに溺れた。 溺れるとしか言いようのない感覚で。 でも。 その苦しさは。 甘かった。 立ってられないほどに膝がガクガクになってしまっていた。 そしてタクミのペニスはゆるく勃起していて。 キヨハラの脚がそこを擦って、タクミは呻き声もあげたのだ。 だけどキスは終わって。 キヨハラはタクミの両頬を両手で挟み込み、また言った。 「好きだ」 その目も顔も。 怖くなるほど真剣だった でも。 もうタクミは立ち上がれないほどに、脳が限界で。 ヘタリこんでしまった。 キヨハラは。 笑ってタクミを背中に背負って家まで連れて帰ってくれた。 タクミはキヨハラの背中で傘を持ちながら、ひたすら 混乱していた。 キヨハラはそこからはなにも言わなかった。 家に着いたタクミに。 「また明日」 そう言っただけで。 いつものように笑顔を見せて雨の中へ消えていく。 タクミがその後熱を出したのは。 雨だけのせいではなかった

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