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楽園 18
キヨハラは優しい。
キスもしたし、なんならそれ以上のこともした。
タクミはキヨハラに「それ以上のこと」をされてからなんだかさらに悶々としていた。
そう、タクミは自分の胸が揉まれて感じるとか、乳首が尖って凝って潰される度に甘く痛むとか。
そんなの知らなかった。
知るわけもない。
でもキヨハラの指に声が出る程感じたのは事実で。
キヨハラの手とキスを思ってオナニーするのは止められなかったし、何ならキヨハラに触れられたみたいに乳首を弄ってするようになってしまった。
そんなとこ、が気持ち良いなんて。
それはショックすぎた。
キヨハラのハンカチを返さないでいる。
というよりああいう風に使ったモノを返せるわけもなく、でも、それを使ってずっとオナニーしてしまっているのは絶対にキヨハラには内緒だ。
キヨハラの名前を呼びながら、ハンカチに出しているのだ。
キヨハラは。
タクミが本当に好きなのだ。
だって好きじゃなきゃあんなことしないだろ、タクミは思う。
男の胸とか弄ったり。
だけど、胸とかいじるってことは本当はもっと大きな柔らかい胸とかの方が好きなんじゃないか、とか。
色々考えてしまったりする。
なんせキヨハラがそれまで付き合ってきたのは。
綺麗な花みたいな女の子達なのだから。
なんでオレ、とは思う。
思うけど。
思うけど、
けどけどけど。
タクミこんなグジグジ悩んだりした事がない。
キヨハラだから。
キヨハラが好きだから、悩んでしまう。
だってキヨハラはとても優しくて。
完璧だ。
タクミが怖がってしまったなら止めてくれるし。
でも。
でも。
キヨハラには本当にタクミで良いのかって思ってしまう。
だってキヨハラだ。
あんなに綺麗で、優しくて、頭も良くて。
孤高の王子様だ。
結局のところ、タクミには自信、がないのだ。
タクミには何もない。
タクミは部活のボクシングを頑張ってきたけれど、結局、最後の試合は最悪だったし。
勉強が出来るわけでもない。
これから始める職人としての道はまだ始まってもいない。
キヨハラに相応しいと思えない自信の無さが悪いのだ。
卒業まで。
時間がある。
タクミは決めた。
キヨハラに相応しい男になる。
少なくとも。
キヨハラに優しくされるだけの男ではないことを示したかった。
タクミは決めた。
そして決めた次の日、学校へ行く途中でキヨハラに告げた。
「スパーリング大会?」
キヨハラは驚いた声をだす。
もう10月。
夏の最後の試合から4ヶ月。
キヨハラと付き合い始めてそれだけの日が流れてた。
「先輩が通ってるジムであるんだ。そこに、オレが負けたヤツが出る。リベンジしようと思う。参加させてもらうことにした」
タクミは言った。
対戦相手は2年生。
父親がボクシングのジムを経営しているらしい。
子供の頃からのボクシングエリートだ。
結局、県代表で、国体まで出てる。
「リベンジ・・・」
キヨハラは分からないと言ったように繰り返す。
「キヨハラ!!オレは!!お前にオレのことをカッコイイと思ってもらいたい。オレはお前のことを誰よりもカッコイイと思ってるから!!」
タクミは言いきった。
キヨハラの顔が赤くなる。
タクミにカッコイイと言われたからだ。
誰も知らない。
キヨハラのこんな顔。
「オレが他人より頑張ったのはボクシングだけだ。才能が無いのは知ってる。でも。オレはボクシングを頑張った。だから、今お前にオレが少しでも見せれるモノがあるならそれしかない。キヨハラ。オレは、お前の前でアイツに勝ちたい」
タクミは言った。
やり遂げたい。
ボロボロになってキヨハラに慰められた。
でも。
でも。
そうじゃなくて。
キヨハラにカッコつけたい。
こんなことを言ってる時点で違う気がするが。
それに。
「やっぱり、負けたままでは終わりたくないんだよ」
タクミは言った。
「12月!!スパーリング大会でアイツにお前の前で勝つから!!」
タクミは宣言した。
キヨハラがポカンと目を見開いていた。
驚いている。
こんなキヨハラの顔も誰も知らない。
タクミの、
タクミだけのものだ。
「2ヶ月程、学校に一緒に行くのも帰るのも出来なくなるけど・・・大好きだから!!待ってて欲しい!!頼む!!」
タクミは必死の思いで頭を下げた。
卒業までの貴重な時間、キヨハラといたい。
でも。
これから先キヨハラといるために自信が必要だった。
「タクミ・・・」
キヨハラは複雑な顔をした。
心配してるような、困ってるような、戸惑っているような。
多分全部だろう。
「待っててもらえ、ない、か?」
タクミの声が小さくなる。
キヨハラに拒否されたら意味がない。
「・・・・・・待つよ」
キヨハラはしばらく考えこんでそう言った。
「タクミがやりたいことをして欲しい。オレはタクミをいつでも応援する」
優しい笑顔だった。
優しすぎて泣きたくなるような。
恋人とは。
なんて優しいモノなのか。
タクミは嬉し過ぎて踊った。
踊るタクミにキヨハラは一瞬たじろいだけれど次の瞬間は吹き出してた。
「キヨハラ、キヨハラ!!急ごうぜ!!遅刻する!!」
タクミが踊りながら器用に走り出す。
キヨハラは笑いながらそれを追いかける。
「そうだな。タクミがもっと・・・傷ついて。オレから離れなくなるといい」
小さな呟きを決してキヨハラはタクミに届かせるつもりはなかった。
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