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楽園 19
スパーリング大会の参加は主催ジムのオーナーで会長である人が快く受け入れてくれた。
本来はジム内の身内のイベントなのでタクミは参加できない。
だが、ジムに直談判に来たタクミの願いを聞きとげてくれた。
スパーリング大会に負けた相手との対戦を求めて参加したいというタクミの心意気が気に入ったらしい。
「リベンジね、僕はそういうの嫌いじゃない。でもね、君とオレの息子、相性悪いよ?試合見たよ、君は決して弱くない。でもウチの息子とは徹底的に相性が悪い。同じことになるかもよ」
会長はニコニコ言った。
その通り。
タクミのスタイルと相手のスタイルはタクミにとって噛み合わない。
同じように試合するならタクミは同じように綺麗にポイントを取られて負けるだろう。
「同じにはしません。絶対に」
タクミは単にもう一度頑張るだけの試合をするつもりはなかった。
勝ちにいく。
そのための試合をしたかった。
会長は嬉しそうに笑った。
本当にボクシングが好きなのだ、とわかる。
「ウチはプロジムだから。プロの判定基準で勝敗つけるけどいい?。判定はウチのトレーナー達がするし。それでもいい?でも、アマチュアルールよりは君には有利だと思うよ」
会長の言葉に、タクミは喜ぶ。
アマチュアルールとプロルールは違う。
ポイントを奪うことだけが求めれるアマチュアルールとは違いプロルールは相手に与えるダメージや積極性等も加味される。
根性勝負で、攻撃特化のタクミはアマチュアルールたと不利が多いがプロルールだと有利な点もあるのだ。
「まあ、ウチの息子は【負けない】よ?そう教えてきたからね」
会長は言った。
自信たっぷりだった。
「オレは【勝ち】ます」
タクミは言った。
言ってみてから、自分が対戦相手のジムに出向いてて、しかもそう言ってみせたのが相手の父親でトレーナーなのだと思い出して慌てた。
めちゃくちゃアウェイで何言ってるのか。
「いいねぇ。君の試合は何回か見たことあるよ。下手くそだけと、気持ちが強い良いファイターだと思ってたよ。そういうボクサー好きだよ、僕」
会長はまた目尻を下げた。
本当に。
本当に。
ボクシングとボクサーか好きなのだな、とタクミは思った。
「でも、【負けない】よ。それが分からないと、君はうちの息子に勝てないよ」
会長はタクミの肩をポンと叩いた。
タクミは考えこむ。
これはボクシングのプロフェッショナルが好意で教えてくれてるアドバイスだとわかったからだ。
【負けない】、とは???
「2ヶ月後。待ってるよ。息子にもいい勉強になるようにしてね」
【 つまらない試合は許さない】という意味だとわかった。
選手の成長にならない試合など、無意味だからだ。
タクミと試合形式のスパーリングさせることに意義を感じてくれたから、スパーリング大会の参加を認めてくれたのだ。
タクミは礼を言ってジムを出た。
なんとしても。
勝たなければ。
タクミは。
負けて潰れた自分自身を取り戻したかった。
これはキヨハラとのことがきっかけだったけれど。
タクミは遅かれ早かれ、自分を取り戻す必要があったのだ。
慰められる男だけじゃない。
そんな男ではいたくない。
そんな男ではだめだ。
キヨハラの前に。
自分を取り戻して立ちもどり。
もう一度、キヨハラに告白するのだ。
タクミは走りはじめた。
とにかく走ることから始めないと。
4ヶ月のブランクがある。
もう、勝負は始まっていた。
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