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楽園 20

引退した部活に参加させてもらった。 放課後は後輩達と練習し、他校との出稽古にも参加させてもらう。 先輩のコネで、いろんなボクシングジムにも出稽古させてもらえることにもなった。 今さら新しいことを覚えることはできない。 でも、持ってるもので相手と戦わないといけない。 次は負けるわけにはいかないのだ。 朝は早起きして、自分で走りこみをする。 とにかく走らないと。 引退してしばらくのブランクがあるから。 まあ、全く何もしてない訳ではなく、夜バイトから帰ってから走りに行っていたのは今にして思えば助かった。 とにかく2ヶ月しかない。 やれることをしたかった。 でも。 通学だけはキヨハラと一緒に行くことにした。 だって。 会いたい。 でもキスは勘弁してもらった。 死ぬ程したかったのはタクミの方だけど、キヨハラにキスされたら、それを思い出して、どうしてもオナニーがしたくなる。 止まらなくなる。 それはとても今は拙い。 体力が落ちてしまう。 「スパーリング大会が・・・終わったら・・・いっぱいキスしたい」 真っ赤になってタクミが言うと、キヨハラはいつものように優しく笑った。 「うん。終わったら、たくさんしよ?」 その笑顔に切なくなってしまった。 「オレはタクミを応援してるから」 優しい恋人の言葉にタクミは決して負けない決意を固める キヨハラの前に。 自信を持って立てる男になる。 なるのだ。 「オレ、頑張るから!!キヨハラも受験頑張って!!」 タクミはキヨハラに合格祈願のお守りを渡す。 日曜日、ジムの会長の所へ行って来たとき、帰りに目に付いた神社で買ってきたモノだ。 神に願ったのは、キヨハラの合格で、自分の勝利ではない。 神様に勝たせてもらっても意味がないからだ。 「もちろん、キヨハラも実力で受かると思ってるけど、でも体調とか何か困ったことだけは無いように神様にお願いした」 タクミは言った。 そう。 キヨハラも神に頼るような男ではない。 だからタクミは自分の力で勝ちたいのだ。 「・・・ありがとう、嬉しいよ」 キヨハラはタクミを見つめる。 何でそんなに驚いたような目を。 驚いてるけど、嬉しくてたまらないみたいな顔をするのか。 と、同時に。 何でそんな切ない顔するのか。 「タクミ。好きだよ。本当に」 キヨハラの指がタクミの髪に触れた。 それだけでタクミは胸が痛いのに幸せになる。 二人でいつもの川原を抜けて学校への街中への道に入る。 少しのんびりしてしまったので、二人で笑いながら走った。 幸せだった。 もっと幸せになるために、タクミは頑張ろうと思った。 でも。 キヨハラは。 少し前を走るタクミを見つめながら、声には出さず呟いた。 「何でそんなに・・・でも。離してはやらない」 キヨハラは。 唇を噛んで。 何かを耐えていた

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