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楽園 21

タクミの友人達の態度が変わった。 というより、妙な距離がうまれてきた。 そう、大きく何か変わったわけではないが、何か奇妙な膜のようなモノがタクミと友人達の間にある。 タクミと話す時、何かこう、必要以上に警戒するような。 気をつけている感じ。 言葉を選んで、話題を選んでいる感じ。 そんな態度を取られたことはそれまで無かったから、タクミは戸惑う。 何か明確におかしいなら指摘して、聞き出せるのに、友人達はタクミといることを避けてるわけではないし・・・、何か、何かおかしい、そうとしか言えない、でも確かに薄い膜のようなもので遠ざけれられていることに、タクミは困惑した。 でも。 冗談を言い合えるし、無視されたり避けられている訳でもないし。 だだ、タクミにキヨハラについて何か言おうとした友達だけは、タクミに明らかな距離をとった。 元々、とても親しいとはいえなかったし、攻撃的な態度や嫌悪を遠ざけられていても感じるわけでは無かったので、「そんなもんか」と思うことにした。 キヨハラへの何か悪感情から、タクミにそれが来ているなら、構わないと思った。 キヨハラを悪く言うヤツとはどのみち一緒にいられないからだ。 友人達との間にできた見えない膜も、キヨハラと何かしら関連があるとタクミにも分かってきた。 何故なら、今ではクラスの男子はキヨハラについて一切何もタクミに言わないのだ。 前までは何かしらキヨハラの文句を言ってたのに。 女子達もさらに遠巻きにキヨハラを見ている。 キヨハラとタクミが親しいことが、友人達と自分を遠ざけているのだ。 だとしても、キヨハラと離れるつもりなど一切無かった。 そもそも何か誤解があるのだ。 キヨハラはあんなに優しいのに。 タクミはキヨハラがどれほど優しいのか知っているのだ。 今朝もタクミはキヨハラと学校に来た。 キヨハラはタクミの顔を見て、驚いた顔をした。 タクミは昨日後輩とスパーリングをして、良いのをもらってしまい、少し目の下が腫れていたからだ。 まあ、ボクシングをしていたらこういうのはある。 ヘッドギアをしていても、顔は守れないからだ。 タクミにしてみればたいしたことではない。 ボクシングをしているのだ。 こんなの日常だ。 でもキヨハラの顔が痛そうに歪んだ。 まるで自分が殴られたかのように。 キヨハラの指がそっとその痣を痛まぬように触れた。 熱を持っていたそこに、さらに熱が集まる気がした。 キヨハラは何も言わなかった。 ただ、タクミが痛みを感たことに、痛みを感じているとも、心配だとも、何も何も でも。 タクミが傷つくとキヨハラも大丈夫ではないことだけは伝わってきて。 自分の痛み以上にそれを感じているのが分かる。 でも、タクミのボクシングを止めないこともわかって。 それはタクミのしたいことだから、と分かってくれてて。 あえて何も言わない。 でもキヨハラの目が指が。 切ないくらいにタクミを想ってくれてて。 タクミはたまらない気持ちになった。 タクミの痛みを自分のモノのように感じてくれる、そんな存在がいることに、深い喜びが湧き上がる。 タクミは耐えてたから。 タクミは母親にも弱さも傷も見せずに、平気なふりをしてきたから。 でも。 キヨハラだけは違う。 キヨハラはタクミの痛みに気付いてくれる。 キヨハラとキスして抱き合いたかった。 でも。 そこは、堪えて。 こんな優しい上に理解ある恋人のためにも、強い男にならないと、とタクミは決意を新たにしたのだ。 キヨハラは優しい。 そして、理解ある理想の恋人で。 だからこそ思った。 誤解がある。 誤解されてる。 他人の痛みを自分の痛みだと思える男が、相手のことを理解しようとする男が、悪いヤツなはずがないのに。 試合が終わったなら、この誤解も解かないとな、とタクミは思った。 キヨハラが。 誤解されたままなのは、タクミとしては辛かった。

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