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楽園 29

キヨハラが驚いたようにタクミを見下ろしていた。 口の端から一筋の血が、流れる。 止めたかっただけだが、思ったよりも強く入ってしまった。 タクミは慌てた。 呆然としているキヨハラの顔に手を伸ばし、流れてる血を指先で拭った。 「・・・ゴメン・・・叩いたりしてゴメン」 タクミは必死で謝った。 キヨハラを傷つけたかったわけではない。 血の気がひいた。 「痛かったか?ゴメン・・・ゴメンな」 タクミは泣きそうになる。 と言うよりさっきまで、キヨハラに性的に泣かされていたのだけど、今泣きそうなのはキヨハラの血と傷にだ。 誰よりも傷つけたくないのに。 大事なのに。 キヨハラの唇に指をいれ、傷口を確かめる。 そこまで深くもないし、大きくもない。 でも。 血がまた滲んできて、泣けた。 叩いた口元が赤くなってて。 アザになるかもしれない。 「ゴメン・・・キヨハラ、ゴメン・・・」 タクミはキヨハラの頬に手を当てて、その顔を覗き込みながら謝る。 謝るしかない。 キヨハラの目は大きく見開かれている。 信じられないものを見る目だ。 恋人に暴力を振るう男に愛想をつかされたのだろうか。 タクミは申し訳無さに震える。 泣いてしまった。 「ゴメン・・・ケガさせてゴメン・・・」 震える指で、キヨハラの血を拭い続ける。 止まらないことが悲しくて、また泣いてしまう。 「タクミ・・・タクミ」 キヨハラがやっと気がついたかのようにタクミの手を握った。 その手がタクミのモノで汚れているのが、さっきまでの興奮と、今の混乱との差を見せつける。 「違うだろ・・・なんでタクミ謝るんだよ・・・」 キヨハラは顔をくしゃくしゃにした。 それでも。 そんな顔でもキヨハラは綺麗で。 キヨハラが泣き出すかと思ったけれど、キヨハラはタクミを抱きしめた。 泣く代わりに。 「キヨハラ・・・キヨハラ・・・話をしよう」 タクミは言った。 今こそここで。 話をしないといけない。 キヨハラは。 タクミを抱きしめたまま、ため息をついた。 でも。 もう。 話をしてくれるのだと。 分かった。

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