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楽園 30

キヨハラは支配を楽しんできた。 そう言った。 服を整え、興奮していた身体を落ち着かせて、キヨハラの隣りにモゾモゾと座ったタクミにキヨハラは話をしてくれたのだ。 それはキヨハラが高校生になるまでの話だった。 「支配?」 タクミは首を傾げる。 意味が分からなかった。 「タクミには分からないだろうね」 キヨハラは笑った。 寂しそうに。 まるでもう、遠くに離れてしまった人へ笑うみたいに。 その笑顔の意味も分からなかった。 そしてキヨハラは語り始めた。 キヨハラの家は有名だった。 そう。 暴力を仕事として扱う家だった。 キヨハラはその家の子として生まれた。 だから。 子供の頃から誰もキヨハラに近寄らなかった。 大人も。 子供も。 キヨハラを遠巻きにした。 家族も居ないも同然だった。 父親はキヨハラの相手をすることは無かったし、母親もそうだった。 キヨハラは本宅ではない離れで、その為に雇われた人間によって育てられた。 母親は戸籍上の母親であることは、幼稚園の頃には理解していた。 キヨハラを産んだ女は、キヨハラをこの家に置いて行ったのだ。 父親がキヨハラを欲しがったのかもしれない。 父親はキヨハラを愛してはいなかったけれど、自分の子供という存在に執着していたから。 今は本宅に済む成人した兄もまた、母親の子供ではなかった。 母親は子供が産めないから他所の女に産ませた子供を引き取ったのだと聞いた。 跡継ぎだ。 そしてキヨハラは、万が一兄に何かあった時のスペアだった。 キヨハラは。 この家で支配について学んだ。 父親は全てを支配していた。 妻に腹違いの子供を家にいることを受け入れさせ、腹違いの兄は自分の跡継ぎとして生きることを強要し。 キヨハラは兄に何かあった時のスペアとして家に置く。 誰にも異論を言わせなかった。 支配していた。 家にいる使用人、そして、常に誰かいる父の部下達。 誰も父親には逆らえなかった。 兄がいる限り、キヨハラに父親は目を向ける気もないのをキヨハラは知っていた。 それをマシだとキヨハラは理解していた。 父親に支配される兄や母親ということになっている女性はあまりにも哀れだった。 キヨハラはそれを見ていた。 キヨハラは。 支配する側になることを選んだ。 その方が楽しいと分かっていたからだった。

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