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楽園 31
キヨハラは小学生の頃から支配を始めた。
そもそも、キヨハラに自分から近付く子供はいなかった。
子供達もキヨハラの家が何なのか知っていたからだ。
最初から恐怖はあった。
でも、キヨハラは恐怖を支配に利用するのは簡単すぎる、と考えた。
キヨハラの父親は暴力だけで支配していたわけではなかったからだ。
キヨハラの義理の母親、父親の妻は、外で子供を産ませてくる夫をそれでも愛していたのだ。
哀れな程に。
酷く傷つけ、そして優しくする。
優しく優しくして、離れられなくする。
そしてまた傷つける。
そして優しく。
繰り返していけば。
哀れな奴隷が出来上がる。
夫の言葉1つの為に、何でもする女がいた。
兄もそう。
父親に怒鳴られたと思えば、酷く優しくされる。
幼い頃から感情を揺さぶられ続け、父親の言いなりになっている。
父親を恐れ敬い、従うしかない。
父親に認められたくて仕方ない。
父親の部下達も、恐怖以上に心酔していた。
父親が平気で連れてくる女達、おそらく自分や兄の母親達のような、もそうだった。
みんな何でもした。
それは恐怖のためだけではなかった。
父親のために喜んでそうしていた。
父親は支配を楽しんでいた。
父親だけが強者だった。
父親がキヨハラをスペアとしてしか認識せず、必要以上の関心すら無かったことはキヨハラにとって幸いだった
見えていないモノを父親は支配しようとはしなかったからだ。
キヨハラは確かに父親に支配下にいたたけれど、父親に狂わされるほど近寄ることがなかった。
キヨハラは代わりに良く学んだ。
そして、父親の手法を他の子供達に試し始めた。
キヨハラは自分の姿の良さを知っていた。
そしてそれが使えることも。
父親とそれほど容姿は似ていなかったが、だが容姿が良いことが使えることは父親のおかげで良く理解してきたし、何より父親とは違って柔らかく美しい顔立ちは父親以上に支配には有効だともう分かっていた。
優しい声で、優しい顔で、優しく振る舞いで。
キヨハラは他の子供達を虜にしていく。
キヨハラが「怖い家」の子だと分かっているからこそ、子供達は怖さとその魅力に引き裂かれていく。
親に禁じられているからこそ、キヨハラに引き付けられ、近寄ればキヨハラに強く魅力された。
キヨハラの家、敷いては暴力への恐怖はいずれ、キヨハラから拒否されることへの恐怖へとすり替えることが出来ることをもうキヨハラは学んでいた。
美しい義理の母親は父親に捨てられるのが怖くて、父親が自宅の寝室で女達を抱くのを許している。
女達を抱いた後に「お前だけだ」と抱いてもらえることでそれに耐えるのだ。
父親は。
傷ついた母親を楽しんでいた。
傷ついた母親を慰めてる時が、一番父親は楽しそうだった。
優秀な成績を要求された兄が真っ白になりながら必死になるのも、父親のために格闘技の大会で優勝しようとするのも、楽しんでいた。
父親がたまに褒めて、優しくして、期待しているというだけで、兄はどんな努力も惜しまなかった。
優秀な兄がそれでも上手くいかなくて、ズタボロになった時、それを優しく慰めるのも父親は楽しんでいた。
優しくされて兄は。
もっと父親のモノになっていくから。
優しくして、傷つけて、さらに優しくして。
それを繰り返えせば良い。
キヨハラは知っていた。
そして、キヨハラは自分にはその力があることを知っていた。
だから。
キヨハラは支配を楽しんだ。
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