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楽園 34
ギリギリだったのだ。
キヨハラが思っている以上に。
グラスの水が張り詰めていて、もうあと一滴で溢れる寸前、そんな緊張だったのだ。
流れ出していないだけで。
そして。
とうとう、溢れた。
キヨハラはいつも通り学校へやって来た。
前の夜、泊まった女に学校の近くまで車で送らせて。
キヨハラは機嫌が良かった。
セックスは楽しかったし、この女がいるのは邪魔にはならなかった。
まあ、その程度だったけれど。
「今日の夜は?」
女が降りる時に運転席から聞いてきた。
「約束がある。送ってくれてありがと」
とだけ答えた。
違う女と約束してた。
特別な女はつくらない、それは女達に言っていた。
どうせ女達も、中学生であるキヨハラ相手に人には言えない関係を結んでいるのだからお互い様だと思っていた。
「・・・そう」
女がいつもの作り笑いをやめて、無表情に言ったことだけが気になったが、キヨハラは女に軽く手を振り学校へ向かった。
どこかおかしい1日の始まりだった。
学校に入れば、キヨハラのシューズボックスの前に少女達が群がっていた。
キヨハラはさすがに不思議に思った。
シューズボックスの中に手紙が入ってたり、机の中に手紙が入っていたりするのはよくあることだった。
だけど、女の子達がその前に集まっているというのは今までにはなかった
少女達は、一人の少女を取り囲んでいた。
その少女は泣いていて。
しかもずぶ濡れだった。
取り囲む少女の一人が、トイレとマジックで描かれたバケツを持っていて、少女の足元には水溜まりがあった。
バケツの水をかけられたのは間違いなかった。
キヨハラは困惑した。
意味が分からない。
何故、ここでこんなことをしているのか。
少女達はキヨハラにまだ気付いていなかった。
「迷惑でしょ。キヨハラくん、あんたなんか相手しないから」
バケツを手にした少女が言った。
他の少女達もそれに賛同する。
キヨハラは囲まれている少女に目をやる。
見覚えはあった。
キヨハラの隣りの席の少女だ。
隣りだから、話かけられたならめんどくさくない時には、返事くらいはしてる。
そう。
昨日も何となく話をした。
大した話じゃない、した内容も覚えていない。
だが、話をして、笑いもした。
それが原因だとわかった。
「ちょっと話しかけられただけで調子にのるのバカじゃない?」
そういう声かしたから。
ずぶ濡れになったメモを一人が汚らしそうに持っていて、だからそれをキヨハラのシューズボックスに入れようとしたことが原因なのだと分かってしまった。
キヨハラに近づこうとした少女を他の少女達は許さなかったのだ。
だが。
まあ。
これくらいならキヨハラは気にしなかっただろう。
勝手にやってろ、ぐらいのことだ。
キヨハラの顔色が変わったのは、周りにいた少女の一人がカッターナイフを持っていたからだ。
まず、ずぶ濡れの少女の前髪が切られた。
少しの躊躇もなかった。
濡れた少女を取り囲む少女達は、笑っていた。
その笑いには狂気があった。
彼女達は許さなかった。
勝手な抜け駆けを。
少女達はキヨハラを欲しがっていた。
優しく笑いかけて欲しかった。
それを独占するものが許せなかった。
キヨハラが走って届く前に、今度は少女の頬が切られて、血が流れ出していた。
少女達は声を立てて笑っていた。
何か。
何かが壊れだしていた。
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