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楽園 37

話終わったキヨハラの顔は真っ青だった。 タクミの方を見ようともしなかった。 キヨハラが震えていた。 怖がっていた。 怯えていた。 タクミから嫌われることに。 「オレは・・・そこから支配は止めた。誰の気持ちを引こうともしないようにした」 支配は相手のことを思いやっているフリをすることから始まる。 キヨハラは人間への好意的な振る舞いを全て止めた。 冷たく酷い男として、振る舞うことにした。 潰された顔の少年。 腹から血を流す女。 彼らが死ななかったのは奇跡だった。 キヨハラの為にしたことだと笑顔を浮かべる少年達。 返り血の中キヨハラがこれで自分の家に来ると笑う女。 彼らは罪に問われた。 キヨハラほもちろん無罪だった。 被害者も加害者もキヨハラを悪く言うはずがないからだ。 キヨハラの支配は父親のように完璧だった。 ただ父親なら笑って楽しみ、そんな流血など気にもとめないで過ごすだろう。 勝手にやって勝手に殺しあったのだと。 キヨハラの父親にもう会ってもらえなくて死ぬ女は何人もいたし、キヨハラの父親の為に刑務所に行く男達も何人もいるのだ。 だけどキヨハラは。 父親と違って人間だった。 それに耐えられなかった。 キヨハラは支配を捨てて冷たく酷い男として振る舞うことで人を遠ざけていった。 それでも寄って来る女の子達は、冷たく抱いて突き放した方が居なくなってくれることを知った。 嫌われる方が良かった。 そんな風にしか扱わない男だと教えて、それでも付きまとうならそう扱って諦めさせた方が早かった。 女達の温もりに、癒されたことがあったのが遠い日のことのように思えた。 キヨハラは自分を取り巻く少年達が自分に夢中になるのも、女達の優しい体温も、嫌いでは無かった。 キヨハラなりに彼らが好きだった。 一度も愛されたことはない子供らしく、彼らを好きだったのだ。 だが。 もう無理だった。 キヨハラは支配以外知らなかったから。 キヨハラの存在は人間を歪ませる。 キヨハラは自分のことを出来るだけ知らない高校を目指した。 キヨハラに無関心だった父親はこの事件で少しキヨハラに興味を持ったらしい。 遠い学校の受験も、自宅を出てマンションを借りて暮らすことを許してくれた。 それは。 自分のスペアの存在に怯える兄をさらに支配するためだったかもしれない。 今まで気に止めてなかった腹違いの弟の存在を気にかける父親に、兄はさらに引き裂かれていた。 父親の思う壷だった。 また1つ深く兄を支配し、楽しんでいた。 父親も良く分かっていた。 キヨハラは父親に似ているからこそ、父親には支配できない。 兄のスペアとしては必要だが、兄の方が圧倒的に父親に都合が良い。 支配者は2人いらない。 だからキヨハラを家から出したのだ。 キヨハラは完全に孤独になった。 それはキヨハラには幸せだった。 もうあんな真似はごめんだった。 「でも。タクミ。オレはタクミを見つけてしまった」 キヨハラは真っ白な唇で言う。 「見つける?ずっとクラスメイトだったじゃないか」 タクミは言う。 「違う。もっと前。前。入学式から・・・」 キヨハラは苦しそうに言った。

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