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楽園38

高校に入学するまでキヨハラは荒んでいた。 自分の為に暴力を振るった連中が矯正施設なり、転校等により居ないことが嬉しかった。 近くにいなければ自分の為に何かしようなんて思わないだろうからだ。 二度と会わないことでしか、止められないことを知っていた。 兄や義理の母を見ればわかる。 父親から離れようとどんなに悩んでも、父親を目にしたら、その覚悟がなくなってしまうのだ。 兄は父親に縛られ、義理の母親は父親に縋り付く。 キヨハラが彼らの前にいたら彼らはキヨハラを追ってしまうだろう。 二度と。 二度と。 あんなのは嫌だった。 あの事件で、大人の女達とは完全に切れた。 必要最低限だった使えるお金は、今では十分な小遣いとなった。 父親が兄を焦らせるためにお金をくれるようになったのだ。 それは正直、助かった。 それまでは本当に学校に着ていく服、学業品等以外の金は全く与えられていなかったのだ。 女達のくれた小遣いはたしかに中学生には不相応な額だったが、キヨハラはそれはいずれ独立資金にしようと思っていたからほとんどはためていた。 だが、もう大人の女達とのあの付き合い方はしないと決めていた。 彼女達から何かを、好意や援助をもらうことは、彼女達から何かを求められることだと理解したからだ。 それでも、女の子達はやってきた。 酷い態度をとり、酷い男だと示しても近寄ることをやめようとしない年上の女の子達を抱いた。 キヨハラは抱いて冷たくした。 そこで彼女達はやっと納得してくれた。 同じ学校の女の子には絶対に手を出さなかった。 誰にも優しくしなかった。 寒かった。 誰としてても。 冷たくするためだけのセックスは、キヨハラも冷たくさせた。 ずっとこの体温のない世界で生きて行かなければ慣れないのか、と思った。 でも仕方ないと諦めた。 そして、知る人が少ない高校へ進学した。 実家よりは居心地の良いマンションも手に入れた。 父親は大学への進学を条件にした。 兄が行けなかった大学だった。 兄を追い詰めるためだと分かっていたけれど、自由になる為に引き受けた。 卒業したら、好きにすると決めていた。 父親が自分を本当には気に止めることは無いと知っていた。 スペアが必要なのは、兄を苦しめるためなのだ。 どこかにスペアが居さえすれば兄を苦しめることができるからだ。 たまにキヨハラに父親は優しくしてくれるだろう。 兄を苦しめるためだけに。 父親は支配という形で兄に執着していた。 歪んだ関係だった。 自分の存在が兄を苦しめることになるのは何をしてても変わらないなら、そんな家、早く出ていくしかない。 自分より優秀な頭脳をもつ弟がどこかにいて、自分と成り代わるかもしれないと思いながら苦しむ兄は気の毒だったが、もうこんな家族は真っ平だった。 でも。 冷たく女の子を抱いて、また諦めさせながら、思った。 この家を出て。 自分に何があるのか。 誰とももう関われないのに。 それでも。 この家よりはマシなのだ、と言い聞かせた。 冷たい胸を抱えて、高校の入学式に出席した。 ここで3年。 そして大学で4年。 それで大人として生きていける。 たった一人でしか生きて行けないとしても。 キヨハラは入学式の日、誰とも口をきかず、冷たい態度で過ごしていた。 女の子達が遠巻きに見つめていることも、少年達が顔を顰めているのも気にしなかった もちろん、帰るその時も。 そして。 キヨハラは校門から外へ出ようとした時に。 タクミを見つけたのだった。

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