41 / 64
楽園 41
「好きになって・・・ごめん。諦められないで・・・ごめん」
キヨハラの声は苦しかった。
キヨハラは泣き出しそうで。
タクミはそんなキヨハラを見つめる。
タクミはキヨハラに自分が不釣り合いだと思っていた。
だから釣り合うために、負けた相手に勝って自分に自信を持ちたかった
キヨハラに相応しい男になりたくて。
でも。
キヨハラもそう思っていたなんて。
「あの日タクミが。あんなに苦しんで無かったなら、タクミはオレなんか受け入れないって分かってた」
キヨハラは苦い声で言う。
「今度のスパー大会も、もちろんタクミに勝って欲しいとは思ってた。でも。負けてもっと傷ついたら、オレからもっと離れなくなるんじゃないかっとも思ってた・・・。オレは酷いんだ。オレは最低なんだ・・・でもゴメン。オレはタクミを諦められない」
キヨハラは両手で顔を覆った。
タクミの目から自分を隠すかのように。
「ごめん・・・好きでごめん」
キヨハラの声は聞いたことが無いほど、心細かった。
タクミはじっとキヨハラを見つめた。
キヨハラが言葉を待っている。
タクミの言葉を待っている。
震えていた。
「バカだな」
タクミはそう言って、キヨハラの頭を撫でた。
自分より遥かに大きなキヨハラの身体は今は小さく見えた。
片脚を抱え込むように屋上の床に座るキヨハラは小さく震えていて。
迷子になった幼い子供みたいにみえた。
今まで大きくて綺麗なキヨハラがそんな風にみえたことはなかった。
頭を撫でられるとキヨハラはさらに俯きさらに顔を覆う。
タクミの目から逃げるかのように。
だからタクミはキヨハラを抱きしめた。
タクミの腕で出来る限り。
キヨハラの大きな身体を子供のように。
「オレは・・・タクミも支配していたのかもしれない。タクミがオレを好きだと思っているのも、オレの支配かもしれない」
キヨハラの声はかすれていた。
「オレは上手だから。誰よりも支配することが。・・・オレの父親みたいに・・・」
キヨハラは怯えていた。
タクミが好きになったことさえ、自分が「支配」してしまったからではないかと。
「バカだな・・・。お前がオレに優しくしたのはオレに好かれたかったからじゃないだろ?」
タクミはそういった。
大きな身体をできるだけ小さく丸くなろうとするキヨハラを抱きしめながら。
「知ってるよ。ちゃんと。オレが好きだから優しくしたんだろ?」
タクミは言った。
キヨハラの優しさのどこにも。
計算などなかった。
キヨハラは。
タクミを欲しがったのだろう。
でも。
キヨハラが優しかったのは、タクミを手に入れるためだからではなかった。
「知ってるよ・・・。それにキヨハラお前はわすれてる」
タクミは言った。
キヨハラの頭に小さなキスをして。
「お前を諦めないのはオレなんだよ」
それはタクミには当たり前のことだった。
ともだちにシェアしよう!