43 / 56

楽園 43

「嫌いになんかならない」 タクミはキヨハラに約束したのだった。 キヨハラはタクミから抱きしめられ、頭にキスされただけで、それ以上は求めて来なかった。 「欲しがってしまったら止まらないから」と言った。 タクミはその意味が分かって真っ赤になった。 あの先。 そう、ほんの少し前キヨハラにされたことを思い出した。 キヨハラの淫らな手。 それに喘いだ自分。 あの触れ合ったあの先をキヨハラが求めていると分かったから。 あの強烈な感覚。 今度はタクミも止まれないだろう。 あの時キヨハラの目に怯えを見なければ、そのまま流されていたはずだった。 二人で黙りこむ。 でも。 どちらもこのまま身体だけ進むのは違うとは思ってた。 大事なのだ。 欲望じゃない。 「なあ、キヨハラ。オレはさ、今度の試合、まあ、スパーリング大会だけど、オレには試合だ。勝つよ。本当の試合で負けた事実は変わんない。でも、オレはそのままじゃないってことがその先にあると思うんだ」 キヨハラにタクミが言う。 キヨハラのために強い男で見合う男になりたかった、というのが最初の動機だったけれど、試合の負けを乗り越えるために必要なことだとも、今は思ってる。 「負けたらタクミはもっと傷つく・・・今はオレはそうなって欲しくない」 キヨハラはタクミに抱きしめられたまま言う。 キヨハラが身動きしないのは、自分からタクミに触れてしまえば止めらなくなるからだと分かっている。 「負けるつもりはないよ。・・・でも負けたとしても、次はまた違う方法で乗り越えることを考える。人生がそこで終わるわけじゃないし・・・お前はオレといてくれるんだろ?」 タクミの言葉に、またキヨハラが嗚咽した。 「オレと・・・いてくれるのか?ずっと?狂った家の、マトモじゃない人間と?」 キヨハラの声は痛々しかった。 愛されたことのない子供。 愛したことのない子供。 だから傷つけてしまった。 そして傷つけたことに傷ついてしまった。 孤独な魂。 こんなにも綺麗で。 こんなにも魅力的なのに。 こんなにも孤独だ。 オレだけの。 タクミは思った。 思ってしまった。 弱みを見せられないからこそ、強がるからこそ、誰にも自分を見せられなかったタクミが見つけた、ただ一人の人。 哀しいと思うのに。 でも。 嬉しいとも思ってしまう。 「お前を諦められないのも、お前をはなさないのも。オレなんだよ」 タクミはキヨハラを抱きしめた。 離さない。 ずっと。 キヨハラの低い泣き声が。 タクミは愛しくてたまらなかった。 確信だけがある。 タクミはこの男を決して手放さない。 タクミの孤独は。 この男と出会うためにあったのだ。

ともだちにシェアしよう!