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楽園 45

試合会場である、ジムに向かおうと家を出たところで、タクミは男達に取り囲まれた。 異様な雰囲気の男達だった。 スーツこそ着ているが、いわゆる普通のサラリーマンではない。 それは分かった。 暴力の匂いがした。 タクミは咄嗟に逃げ道を探す。 ゆっくり取り囲んでくるが、隙間はある。 それを見極めた。 タクミの判断は早い。 逃げると決めていた。 「待て。逃げるなよ、タクミくん。何もしない。挨拶に来ただけだ。ウチの息子がお世話になっているみたいだからね」 スイッチを入れ、今にもすり抜ける為に走り出そうとしていたタクミが止まったのはその声のせいだった。 その声は似ていた。 キヨハラの優しい声にあまりにも。 ただその声は甘くはあったが、優しくはなかった。 ただ、そう麻薬のような甘さがあった。 タクミはその声の方に振り返る。 背の高い男が立っていた。 高価なスーツに実を包んだ、背の高い、暴力の匂いがする大きな身体の、危険な匂いがする男。 そう。 受ける印象は確かに違うが、それでも恋人の面影がそこにあった。 均整の取れた大きな身体。 目の形。 口元。 キヨハラのような美しさではなかったが、男もまた、美しくはあった。 でも、刃物のような男だった。 キヨハラの父親だとすぐにわかる。 「支配者」だとすぐに分かったからだ。 男達を当たり前に従えて、タクミを面白そうにみている。 タクミは逃げるのは止めた。 逃げても無駄だと思ったからだ。 「オレ、これから試合なんだけど」 タクミは一応言ってみる。 「会場まで送るよ。車の方が速いだろ?」 キヨハラの父親は親切そうに言った。 タクミはキヨハラの父親がドアを開けた車に乗り込んだ。 どういうつもりなのか分からないが。 逃げられないのだから。 腹を決めるしかない。

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