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楽園 48
男達の止める声と、キヨハラの叫び声。
窓は真っ白にひび割れて外が見えない。
「もっと強度のあるガラスにしないとダメだな。」
キヨハラの父親はのんびりつぶやく。
タクミは叫ぶ。
「キヨハラ!!オレは大丈夫だ!!心配するな!!」
タクミはキヨハラを心配する。
どうやって知ったのか?
いや知らせたのだろう。
支配者が。
キヨハラの怒りや焦りすら楽しみなのだ、
だって笑ってる。
キヨハラの手にした鉄材が窓を完全に砕くのと、タクミがキヨハラの父親の頬を平手打ちするのは同時だった。
窓の向こうでキヨハラが驚いている。
キヨハラを羽交い締めにしようとしていた男達も。
窓が壊れて見えた車内の様子は、支配者を思い切りタクミが平手打ちしていたものだったからだ。
支配者ですら何が起こったのか分からず、驚いた顔でタクミを見ていた。
恐らく。
生まれて初めてのことなのだろう。
平手打ちなどされたのは。
子どもの驚く顔だった。
タクミ以外の全員が固まっていた。
「オレはボクサーだから本気では殴らない。平手打ちで勘弁してやる。二度とキヨハラに構うな。キヨハラはオレが稼いで大学にも行かせる」
タクミは言った。
本気だった。
こんな奴とはもう関わらせない。
「親の前でプロポーズか」
支配者は目を丸くして言った。
そして笑った。
面白い冗談でも聞いたかのような軽やかな笑い声だった。
「何言ってんだタクミ!!とにかくこっちに来い!!」
キヨハラが焦ったように叫ぶ。
キヨハラを止めようとしていた男達は、支配者が怒りもしないで笑いだしたので毒気を抜かれている。
「キヨハラは諦めろ。オレのもんだ。お前にはやらない。というより、最初からお前のもんじゃなかった」
タクミは父親の目を見ていった。
支配者。
だが、タクミもキヨハラもこの男のことは要らない。
自分を求めないものは本当には支配できない。
タクミには分かってた。
「・・・訂正するよ。君は面白い子だね」
支配者はタクミの目を覗き込む。
目眩がするような感覚がある。
心の奥までサーチされるような。
でも、タクミは気にしなかった。
キヨハラへの気持ち。
キヨハラからの気持ち
それらをタクミは迷いなく信じていた。
支配者は低く笑った。
タクミの中に何かを見たのだろうか。
タクミにはそれすらどうでも良かった。
「行きなさい。いつかまたどこかで会うかもね」
父親は言った。
「会いたくないな」
タクミは言いきった。
こんな男は真っ平だった。
「タクミ!!来て!!」
キヨハラが心配で泣きそうな声で叫ぶ。
だからタクミは腕を広げてまってる恋人の元へ、車の窓から飛び出した。
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