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楽園 50

タクミの試合がスパーリング大会というものであったことが幸だった。 タクミは荷物をキヨハラの父親の車内に置いて来てしまったが、ジムが主催したジム内でのスパーリング大会だったため、まあ色々と融通が聞いた。 「キヨハラの父親に誘拐された」というタクミの言葉は後ろのキヨハラの陰鬱な顔で納得された。 キヨハラの家については誰もが色々知っている。 「警察沙汰にはしたくない」というタクミの言葉も、キヨハラのますます落ち込む様子とかも。 わざわざ来てくれた部活の顧問も、立ち入らない方が良いというのは理解した。 何かあったら警察に連絡しろ、とは言われたけれども。 キヨハラの家は。 警察が何とか出来ないことは皆知っていた。 あの家は違うのだ。 靴だけは練習用のシューズを部室に顧問が取りに行ってくれたが、あとはボクシングジムだから何とかなった。 Tシャツとトランクスもジムで購入した。 口の中を保護するマウスピースも、ジムで売ってるモノを譲って貰い、お湯を借りてその場で作った。 お湯で柔らかくして、噛むことで個人に合わせたマウスピースが作れるのだ。 「え、誘拐・・・キヨハラの???」 「マジか・・・」 等の声は聞こえていたが、タクミもキヨハラも気にしなかった。 もうそんな話では無いのだ。 あの家とキヨハラは終わった。 終わらせたのだから。 「ほんとに試合するのかい?」 主催者である、ジムの会長が言った 誘拐されたそのあとに試合というのは信じられないらしい。 キヨハラを訝しげに見てしまうのは仕方ない。 キヨハラがタクミを取り戻してきたとしても、誘拐犯は父親で、キヨハラの服にはまだ、ガラスの破片が残ってる。 車の窓に使われる特有の破片。 割れた破片が肉を切り裂かないように改良された特別の車用の窓ガラスの。 それはタクミとキヨハラの話が嘘でないことを示していた。 タクミの試合相手の父親でもあるジムの会長は、タクミのことを心配していた。 試合ができるとは思えなかったのだ。 「します」 タクミは言った。 そのために来たから。 「・・・君もどうかしてるよね」 会長は言い、タクミもそれには同意した。 誘拐されたことより、タクミにはこの試合の方が大事だった。 それは確かに。 どうかしてる。 でも。 どうしても。 必要だった。

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