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楽園 51
スパーリング大会が始まった。
試合前に計量は終わっていた。
タクミももちろん、計量を終えた。
大会と言っても、ジムでの身内のイベントだ。
タクミのように外部からの参加者も少しはいるが、ジムの中に一つしかないリング、そこに参加者達が上がり、試合をしてそれをみんなで観て盛り上がる、ジムのお祭りみたいなモノだ。
ジム所属のアマチュア選手同士から、練習生同士、子供同士まで、色んなレベルでの試合がある。
タクミの試合は一番もり上がる、最後の試合になっていた。
言うならばメインイベント。
このアマチュアボクシングのジムで、タクミの試合相手である選手は、会長の息子で、一番将来を期待されている選手なのだ。
実際、この選手はタクミを破って向かった全国大会で準決勝まで行っている。
タクミが勝てると思っている人はほとんどいなかった。
タクミは勇敢で、決して弱くはない。
硬くて強い拳も持っている。
だが。
アマチュアボクシングというポイントの取り合いの競技では、相手の方が何枚も上手だった。
タクミとは相性が悪すぎた。
タクミの良さは撃ち合いにならなければ出ないのだ。
相手はそもそも、撃ち合いにさせないことをスタイルにしてる。
勇気や強さをタクミが見せる前に、相手はタクミを封じるだろう。
そう、今回も。
というのがタクミのことを大好きであるはずの部活の仲間達、そして指導してくれる顧問の冷静な予測だった。
タクミのスタイルは対戦相手には通じない。
かといって短期間でスタイルは変えれないし、変えたとしてもそんな付け焼き刃のモノは通用しない。
タクミの練習は、鬼気迫るものではあったけれど、スタイルを変えるようなものではなかった。
「あれでは勝てない」
皆そう思っていた。
そう、タクミと、キヨハラ以外は。
名前を呼ばれ、リングに向かうタクミを仲間達は心配そうにみている。
ジムの中は最後の試合に大盛り上がりだ。
まずはタクミの対戦相手である、ジムの有望選手がリングにあがる。
ヒョロリとした長い手足。
必要以上無駄な筋肉のない、でも異様に発達した背中がその選手がどういうボクサーなのかを語っていた。
長い手足で距離をとり、相手を近寄らせない。
そして、確実にポイントを稼ぐ。
そして、そのパンチは強い。
タクミは倒れなかったが、他の対戦相手からKOも奪っている。
タクミとは身長差が15センチ程もあった。
対するタクミは小柄だが、しっかり鍛えられた身体と、前に進む力が分かる発達した脚を持つ。
前に来るタクミを近寄らせない対戦相手。
また、そういう試合になることは間違いなかった。
同じ結果。
敗北が予想されていた。
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