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楽園 52

リングが鳴り響き、タクミが突っ込むのは予想されたことだった。 身体を低くして、ロケットのようにタクミは飛び込んでいく。 それを軽いフットワークで躱していく対戦相手。 それも予想通り。 前と同じように相手はタクミを躱し、長い腕でバンチを当ててくる。 タクミとは腕の長さが全く違う。 タクミのパンチが当たる距離になる前にパンチを当てられ、綺麗なステップでタクミのサイドに回り込む。 美しい動きで無駄がなかった。 タクミは直接当てられないように腕を上げて顔をガードしているが、しなう腕がガードをこじ開け、被弾する。 タクミのパンチが当たらない。 全く当たらない。 というより当たる距離までいけない。 前の試合と同じ展開のまま、1Rが終わってしまった 30秒のインターバル。 そして2ラウンド。 今回の試合は3分3ラウンド制になっていた。 「タクミ、このままだと負けるだけだぞ」 セコンドについてくれた顧問が、水でうがいをさせ、顔ををタオルで拭きながら言う。 ガードの隙間を狙って入るパンチは、軽いモノなのにタクミの顔を腫れさせていた。 的確に入るパンチはアマチュアボクシングではポイントになる。 タクミはポイントが取れていない。 「何か考えがあるんだな?」 顧問は言った。 どう見えても、同じ試合の繰り返しにしか見えない。 だが、顧問はタクミが負けるつもりでここに来た訳ではないことも知っていた。 だから、タクミが何も考えないで試合をしているわけではないと思ったのだ。 タクミは少しでも空気を取り入れるために、声には出さなかったが、コクリと頷いた。 「タクミ・・・やりたいようにやれ。お前を勝たせるのはお前だけだ」 顧問はタクミを信じた。 ゴングが鳴る。 タクミはゆらりと立ち上がる。 何も出来なかったことには変わりないはずなのに、前の試合の時とは違って、タクミの顔に悲愴感はなかった。 「タクミ頑張れ!!」 キヨハラの声は。 タクミの背中を押していた。 タクミはまた対戦相手に向かって突っ込んでいった。

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