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楽園53

だが、2ラウンドも何も変わらなかった。 相手の長い腕にタクミのパンチか当たる前に、パンチを逆に当てられ、長い脚がタクミが近寄る前にサイドにまわる。 このラウンドも一方的にパンチを当てられるだけで終わってしまった。 声援よりも、一方的な展開に会場は静かになってしまった。 ただ、キヨハラの声だけは。 恐らく爪を指に、くいこませる程握りしめ、タクミがパンチを貰う度にそれをタクミ以上に苦痛に感じているだろう、キヨハラの声だけは。 「タクミ!!頑張れ!!」 その声だけは響いていた。 だが。 2ラウンドも終わり、もう後1ラウンドしかない。 何もできなかったタクミがコーナーに戻ってきた。 椅子を出されて、そこに座り、口の中のマウスピースを取り出され、うがいの水を口に含まさせられる。 タクミがうがいをする水には血が混じっていた。 相手のパンチは強い。 しなうように飛んでくるパンチは重い。 「タクミどうする。もう終わるぞ!!」 顧問が濡れたタオルで顔を拭きながら言う。 顧問の方が焦っていた。 もうポイント的には負けるだけなのだ。 これだけ何も出来ないのに、タクミが相手からダウンを奪えるとは思えない。 でも顧問もまた、タクミが何も出来ないで終わるのをみたいわけではなかったのだ。 だけど。 だけど。 タクミが笑ったから。 その笑いが確信に満ちたものだったから、固まったのは顧問の方だった。 どう考えても負けが確定しているのに、何故こんな笑顔が出来る? 良いのを貰って、判断までおかしくなったのか? 試合中止するべきか? 「次でいきます」 でもタクミはそう言ったから。 その目はとても強かったから。 顧問はタクミを信じた。 キヨハラ以外にタクミを信じたのは、セコンドである顧問だけだっただろう。 「終わらせこい。勝って終われ。ボクシング、大好きだったんだろ」 顧問は言った。 そして、またゴングがなった。 最終ラウンドだ。 タクミは顧問の言葉に頷く。 そして、タクミは強い男になるために。 何があっても大事な人間を守れるようになるために。 また敵へむかって飛びだしていった。

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