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楽園54
同じことの繰り返し、に見えた。
タクミはパンチを繰り出すが、ことごとく避けられ、逆にパンチを当てられ・・・。
そう思った時。
観ていた人たちは気付く。
タクミの相手はリングの隅、コーナーに追い詰められていた。
タクミは撃たれながらも前にでて、相手を下がらせ、横に動かすことで、逆に相手をコーナーに追い詰めていたのだ。
コーナーに入れば逃げ場は無い。
脚を使って避けられない。
つまり撃たれながらでも、タクミは相手にパンチを当てることが出来るのだ。
ここからはタクミの戦いだった。
殴り合う、我慢比べ。
タクミの拳は硬い。
タクミは笑ってた。
タクミはずっと、相手をコーナーに詰めるために、撃たれながらどう動くかを実行していたのだ。
相手は自分にパンチを当てながらどう脚を動かすか。
それを殴られながら学び、そして逆に殴られることで相手の動きをコントロールし、コーナーまで追い詰めたのだ。
ただの我慢比べの殴り合いに持ち込むためだけに。
殴り合いで。
我慢比べで。
タクミが負けることはない。
タクミの笑顔に相手は確かに怯えた顔を見せた。
「タクミ!!行け!!」
タクミの愛しい恋人が叫んでる。
ーーそうするさ。キヨハラ!!
タクミは心の中で応えた。
観ていた人たちが沸いた。
確かにこれは相手選手のジムで、相手のホームでの試合だったが、誰もがこんな展開は予想していなかったからだ。
相手のパンチが振り下ろされてくる。
だが、もう、タクミはそんなのを気にしなかった。
今のタクミを倒せるパンチは存在しない。
下がらず頭で受けて見せる。
低く構えて、パンチが伸び切る前なら、耐えられる。
そしてタクミは。
何度も何度も練習したコンビネーションをその両腕で繰り出していく。
相手選手の強いパンチがあたっても止まらない。
ジムにいた人たちが、手を叩き声を上げる。
それは戦うボクサーにだけ向けられる敬意ある歓声だ。
相手のセコンドも。
タクミのセコンドも。
そしてリングの前で叫んでるキヨハラ。
声はちゃんと届いた。
タクミは。
負ける気なんて一切なかった。
崩れおちたのは。
相手だった。
レフリーがタクミを止める。
そして。
タクミの手がレフリーによって上げられた。
拍手が起こる。
誰もがタクミが勝つなんて思いもしなかったし、これが大番狂わせだと思っていたからだ。
タクミと。
キヨハラ以外は。
勝つと決めていたし、そして勝ったのだ。
大番狂わせではなかった。
タクミは。
タクミは。
血まみれの顔で笑った。
その視線の先にはキヨハラがいた。
タクミは。
信じたことを現実にした。
これからも。
信じて。
そうするんだと、誓った。
キヨハラは。
綺麗な顔をゆがませて泣いていて。
やっぱり誰よりも綺麗だった。
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