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【2】ギリシャ

 何事にも終わりはある。  映画は二時間経てばエンドロールが流れるし、今日が終われば明日が来る。俺達は時間という概念の中で生きているのだから、始まれば終わる、これはいかんともしがたいことだ。人生だって永遠ではない。  そう、旅にも終わりは存在する。  旅の終わりは耐えがたい。そういえば昔、姉に連れられて訪れたサルディーニャから帰りたくなくて、一人でビーチの岩陰に隠れて大騒動になったことがあった。  俺は終わりが苦手だ。変化が得意ではないタイプだ。そして特に、旅の終わりが嫌いなのだ。  憂鬱すぎる気分を持て余し、ぼんやりとビーチを眺めていた俺を現実に引き戻したのは、控えめなノックの音だ。 「……この部屋、ドアから寝室が遠すぎない?」  コンコン、と軽快に壁を叩く相棒は、堂に入った苦笑いを湛えていた。 「確かに僕はさ、次はきれいで清潔な部屋が良いって文句を垂れたけど――」 「きれいで清潔だろ? ついでに部屋もベッドもでかい。ここなら窮屈な寝床で、知恵の輪みたいに縮こまらなくていい!」 「モノには限度ってもんがあるって言ってんだよ」  などと呆れた声を出しつつも、ミッキーは本気で怒っている風ではなかった。  彼が怒るときは、言葉がとても少なくなる。例えば俺が食べ物を粗末に残した時とか(日本人はメシに関してとても口うるさい! 勿論いい意味でだ)、少々ヒートアップして喋りすぎて道路標識やナビゲーションを遮ってしまった時など、彼は俺の濁流のような言葉を小一時間せき止めてしまうほど明瞭に憤慨した。  ああ、あと、予定も聞かずにエジプトに攫った時も若干キレていたが……その後の散々な旅路の中で、どうやら唐突な仕事の延長と人攫いに関しては有耶無耶に許されたようだ。ふむ。……本当に彼は人が良すぎて心配になる。  キミを攫った金持ちが俺でよかったな、と笑えば、僕を攫う物好きなんかあなたくらいだよ、とため息が返ってくる。その慣れた感情のやりとりが心地よく、俺はまたひっそりと迫った『旅の終わり』を思い、肋骨の内側あたりに寒々しい風を感じた。  そう、旅の終わりはすぐそこに迫っている。  俺が眺める海の向こうは故郷のイタリアだし、何よりミッキーは今しがた仕事の電話を終えたばかりだ。エジプトに滞在していた一か月の間に、彼は何度か学者仲間からの電話を受けていた。どうも、遠方の調査のための人手が足りないらしい。  俺がミッキーを当たり前のように連れまわしているのは、彼が暇だったからだ。学者に復帰するとなれば、勿論酔狂な金持ちの旅につき合わせるわけにはいかない。  故に、素晴らしい絶景を目の前にしても、俺の心は浮かれることはない。 「え。ていうかここ、プライベートテラスあるの……? うっわ、えっぐ……外にベッドあるじゃんか」  改めて部屋の中をぐるりと見まわしたミッキーは、豪勢なつくりのテラスを見咎めると、眉を寄せる。明るい色のウッドデッキには、白いソファーベッドがどかんと鎮座し、マリンカラーのクッションがこれでもかと敷き詰められていた。 「節約が好物のジャッポネーゼは、旅先の贅沢も嫌うか?」 「日本人全員が節約と友達じゃないけど、僕は身の丈にあった生活の方がビビらなくていいなぁって思うだけ。オーストラリア縦断キャンプからのラクダの旅、その後がビーチの高級ホテルなんて、待遇の温度差で風邪ひいちゃいそうだよ」 「きれいで広いところ、というから善処したんだが……というかオンシーズン真っ只中だしな、シンプルにホテルはどこもいっぱいだった。この部屋か、それとも質素なダブルベッドの部屋かの二択だっただけだ。一緒に寝たかった?」 「…………ここがいいです」  目を丸くした後に眉をよせ、気まずそうに視線を逸らす様がたまらない。かわいい。耐えきれずに手を伸ばし、彼の細い腕を掴んで引き寄せる。抵抗を示さない体はいとも簡単に俺の腕の中に納まり、バカでかいベッドの上に二人で転がる。  麗しい太陽。白い壁と目に眩しいビーチ。真っ青に輝く空と海。  からりと乾いた暑さは、砂の国帰りの俺達にはむしろ心地よい程度だ。  白と青の島、ミコノス。  ギリシャの観光地として名を馳せる美しい観光地。エジプトからほうほうの体で退散した俺とミッキーは、ミコノスのブティックホテルに到着したばかりだった。  エジプトの話は……まあ、今はいい。悪い思い出ではなかったし、何事も経験だ。犯罪に巻き込まれることはなく、体調を崩すこともなく、それなりに順調にルクソールの遺跡を回ることができた。エジプトなんて特別興味もないようなことを言っていたミッキーも、スフィンクス参道の圧巻の景色には口を開けていた。  宿が窮屈だったことと、どこに行っても暑くて砂まみれだったことを苦としなければ、まあまあ、うん、悪い旅ではなかったのだ。  ……ただ、ひとつ。  俺は失念していたことがあった。よくよく考えてみれば、引きこもりの人生だったのだ。海外旅行なんてほとんど記憶にない。だから死ぬ前にウルルに行こう、などと思い立ったわけなんだが……カルチャーを知っているようで、実際は実感できていなかった。だから俺は、入国するまで気が付かなかった。  そこがイスラム圏だ、ということに。  イスラム教。アッラーの宗教。  そう、それは厳格に同性愛を禁じる人々の住む土地なのだ。  遺跡は素晴らしい。文化も気候も面白い。命を脅かす暑さも、硬すぎるラクダの背中も、不便すぎる旅も最高だ。しかしながら、隣で目を輝かせるミッキーの腕を手繰り寄せ肩を抱き、キスをすることができない。  わかるか? わかってくれ。そう、それは俺にとってとんでもないストレスだった。  俺はスキンシップが好きだ。  人の体温に飢えていた。しかし心は、他人に対してまだ閉ざされたままだった。愛した人間の喪失、世界からの謂れのないバッシング。そのすべてを素直に受け止めてただ悲劇的に日々を過ごしていたわけではないが、それでも確実に、俺の心は死に近づいていった。  誰かに触れたい。誰かの熱で癒されたい。けれど心は遠くにあってほしい。  オーストラリアのメルボルンに降り立った俺は、どうしようもなく疲れていて、どうしようもなく自分勝手だったのだ。  だから行きずりの親切な青年に、とんでもない条件を提示し、半ば無理やりに、金の力で飲み込ませてしまった。反省は――あー、まあ、それなりにしている。けれどこれだけは言わせてほしい。決して俺は強制したわけじゃない。恐喝も恫喝もしていない。アレは紳士的なスカウトだったし、ミキハラというどう頑張っても噛んじまう名前の青年も納得して了承した話だ。  今思い返せば相当いかれている。いつでもどこでもその唇を許すこと、ただしそこには何の感情もない、ただのスキンシップだ、なんて傲慢にもほどがあるだろう。そして食らいつく勢いで了承の言葉を返してきたミッキーも、やはりいかれていると言える。  ……なんで了承してしまったんだ、キミは。どうせ断られるだろうから一週間はナンパしまくる覚悟でいたってのに、俺のナンパは一発で成功してしまったわけだ。  ミッキーは、頭の良い男だ。  日本人だからまあ、筋骨隆々って感じでもない。アジア人は肩幅が狭くひょろりと細長い。表情を掴みにくかったのは最初の一日だけで、二日目からは彼には非常にユーモアがあり、皮肉をジョークに変換できるチャーミングな青年だということを嫌というほど知った。  ミッキーは言葉で殴り合う会話を楽しんでくれた。その上キスも気持ちよく受け入れてくれる。べたべたすることはなく、体温だけ心地よく分け与えてくれる最高のパートナーに、いつの間にか俺は骨抜きになっていた。  生まれて初めて、男相手に欲情した。  これは恋かって? 馬鹿を言うな、恋に決まっている。俺はもう、彼が何をしても、飯を作っていても運転していてもたどたどしいアラビア語を話していても、道端の虫や鳥を異様に真剣な目で観察しているだけでもキュートに見える病気なのだ。これが恋じゃないなら何だというのだ。これは恋だ。  俺はオーストラリアで恋をした。臆病で熱烈な恋だ。  だが勿論本人に伝える気はない。ミッキーは良い奴だが、同性だ。そして彼が俺に唇を許してくれるのは、単にそういう契約をしているからだ。嫌がるそぶりを見せず、時折耳を赤くして照れてくれるからと言って、それは交際するような関係に発展するとは思えない。  まあ、嫌われてはいない。それくらいはわかる。  ただ、特殊な環境で築いてしまった関係性と感情は、日常に戻った時にも維持できるのだろうか。彼のパートナーは長年男性だったことは軽い身辺調査で知ったことだが、それは告白するきっかけにはならない。男が好きなら俺でもいいだろう、なんてとんだ侮辱だろう。彼が好きなのは彼が愛した男性であって、男という生物ではないのだから。  ああ、うん。ああだこうだと並べ立ててみたものの、結局俺は、あー……ビビっているのだ。  人間が怖い。まだ、信じられない。今の関係が心地よい。彼と俺のバランスを崩してしまうのが恐ろしい。  一か月ぶりに正々堂々と抱き寄せた骨ばった身体の感触を堪能しながら、深く吸った息を吐く。深呼吸はストレスに効くし、憂鬱は肺の奥から若干程度は零れ落ちてくれる、ということを、死にそうな過去の中で学んでいた。  季節は秋だ。とはいえ、イタリアよりも少し赤道に近いギリシャはまだ暑い。八月に出会ったミッキーとは、オーストラリアの冬と、エジプトの夏と、そしてギリシャの秋を一気に体験していることになる。  キスを封じられた一か月に思いを馳せながら、薄い唇を親指の腹で撫でる。くすぐったそうに少し笑ったミッキーは、慣れた様子で素直に口を開いた。……今のは本当に慣れていた。俺以外の誰にそんな顔を見せたんだ、と勝手に腹を立ててしまいそうになる。  嫉妬を自分への苛立ちに変えて抑え込み、感情を誤魔化すようにただ熱心にキスをした。  そういえば、オーストラリアでは寝床は別だった。横になってくつろぐようなスペースはなく、大概俺達は車の中か折り畳みのキャンプチェアーの上でいちゃついた。  ベッドは良いな。うん。とてもいい。何といっても足を絡ませても不自然じゃない。べったりと張り付くように腰を抱いても、ミッキーに押し返されたり逃げ出されたりすることもない。  キスの合間に背中を撫でると、さすがに抗議するように唇を噛まれたが……痛みまでも愛おしく、我ながらいかれているということを実感しただけだった。  名残惜しく唇を離し、思い切り抱きしめる。カエルが潰れたような声が聞こえたが、素知らぬふりで首元に顔をうずめた。 「……エジプトは刺激的だった。ケツが痛い乗り物ばかりで、我慢が好きな俺にとってはパラダイスだったよ。旅は不便であるべきだ。快適さを求めるなら部屋の中で映画を見ていればいい。――が、キミにキスできない日々だけは勘弁だ。正直気が狂うかと思ったよ」 「そんなに? エジプトは、法律で同性愛が禁止されてるわけじゃないんでしょ?」 「だから逆に悪い。法律で禁止されていないから、自発的に警察が取り締まっているんだよ。根拠もなくお気持ちで投獄されてみろ、法律で殴られた方がマシだ」 「あー……あなたが、キスどころかハグすらしてこなかったのはそのせいか」 「一時の快楽のためにキミの人生まで棒に振るわけにはいかない」  素晴らしい国だった。だが、おそらく生きにくい人々もいるんだろう。  エジプトの次はぜひトルコを回りたかったが、なんとトルコもイスラム教徒の国だった。くそ。いや、イスラム教を憎んでいるわけではない。だが俺にとっては少々都合が悪い旅先だ。  仕方なく避難先の如く選んだギリシャは、故郷の対岸にある。必然的になんとなく見覚えのある景色や懐かしい空気があり、帰ってきた、というような錯覚も覚えた。  旅の終わりにはちょうどいい場所かもしれない。このままミッキーを連れてイタリアに帰ってしまっては、俺はきっと彼を別荘に閉じ込めてしまうだろう。そういえば俺の携帯も時々うるさく鳴っていたな。死ぬ気は失せたとはいえ、まだ仕事に復帰したいとは思えない。俺の会社にとっての俺は、もはや飾りのようなもので、居ても居なくても大差ない。  死ぬ予定の日に送信しようとしていた遺書は消して、あと数か月ほど傷心旅行を楽しんでから帰るよと送っておいたが、せめて電話くらいはしたほうがいいのかもしれない。……何度も電話で打ち合わせをするミッキーを思い出し、ふとまた孤独な不安が襲ってきた。 「……仕事の話はうまく行きそう?」  よせばいいのに、俺の口は殊勝にも彼を心配するようなそぶりを見せる。知らんふりをして振り回せばいいのに。強欲で我儘な金持ちのふりをしたらいいのに。小心者の俺は、キミに嫌われたくなくて、旅の終わりを受け入れられるように少しだけ虚勢を吐くのだ。  腕の中で身じろいだミッキーは、顔を上げたかったらしい。しかし俺がゴリラのごとく馬鹿力で彼を抱きしめたままそれを許さずにいると、ついにはあきらめて俺の耳の横でもごもごと言葉を吐いた。 「まあ、うん。仕事って言うか、本当にアルバイトみたいなもんだけど。でも二か月前までの僕なら『ちょっと手伝いに来てよ』なんて地球の裏側から言われても、『どうやって?』って笑って通話を切ったと思うんだよ。……アンドレアがバカみたいな値段で僕を買ってくれたから、ちょっとこの先どうにか生きていけるんじゃない? って光明が見えた」 「俺が買ったのはキミじゃなくて、キミの素晴らしい能力だ。キミは素晴らしい。言語に明るい、料理もできる、博識で言葉が好きで、あとナントカっていう鳥に詳しい」 「オオジシギ」 「わからん。たぶん本物を見ないと覚えられない。キミの名前と一緒だ、別に興味がないわけじゃないから何度でも懲りずに俺の馬鹿な脳みそに叩き込んでくれ」 「え、鳥の話なんて興味ないでしょ?」 「聞いてみなきゃわからない。何事も経験してから判断するように心がけているんだ。それに、好きなものの話をしている時のキミはとても楽しそうで良い」 「…………アンドレアは」 「うん?」 「アンドレアの好きなものは、何?」  キミだ。と、即答できない俺は、思わず息を詰まらせる。そして動揺を誤魔化すように天井を見上げて、己の心臓の音をゆっくりと聞いた。 「――なんだろうな。唐突に言われると、パッと浮かんでこない。俺は案外無趣味でつまらない男だったのかもしれないな」 「いやそんなことないでしょ旅ゴリラじゃん……。ラクダの背中に乗ってはしゃいでいるあなたは、本当に楽しそうだったよ」 「ラクダの背中は誰だって楽しいだろ。あんなもの、はしゃぐなという方が無理だよ。といっても、じゃあラクダが好きかと言われたら、あー……いや別に、好きというわけでもないしな……。まあ、旅は好きだよ」  特に、キミとめぐる世界が好きだ。だから、この先も――いつでもいい。ずっと後でも構わない。キミが暇になったらでいい。仕事が片付いて、一息ついたついでに、また俺と一緒に旅をしてほしい。  そう言うべきタイミングだった。  言え。頑張れ。そのくらいできるだろうアンドレア。三十歳も目前だというのに、恋をした相手に誠実に求愛することもできないのか。  旅の終わりの悲しみに打ちひしがれるよりも、真摯に彼に告白すべきだ。息を吸い、吐く。意を決して腹に力を入れる。  そしてついに、心の内をぶちまけようとした時。 「えーと、じゃあ、寒いところは好き?」  とても言いにくそうに、先に口を開いたのはミッキーの方だった。 「…………寒いところ?」 「あー……具体的には、平均気温零度くらいの場所……」 「凍っちまいそうな気温だな。暑いから困るだとか、寒いから腹が立つとか、特別地球の環境に文句を覚えたことはないが――」 「そう! よかった! いやさ、アンドレアほら、ずっと暑いところばっかり選んで旅してたから、暑いところが好きっていうか寒いの嫌いなのかなぁって思ってたんだよ。そういえば不便が好きなマゾだったね!」 「人聞きが悪いな、不便こそ旅の醍醐味だと思ってるだけだよ」  あえて苦しい恋を選択している、という意味では確かにマゾヒストなのかもしれないが、それにしてもミッキーの話にはゴールが見えない。センチメンタルな旅の終わりの気配を一時置き去りにして、俺は彼を抱きしめる腕を解く。  がばり、と身体を起こしたミッキーは少し、というか、かなり興奮した様子だった。  にんまりと笑う。その顔は少年のようで頭にくるほど愛くるしい。 「アラスカに行くことになったんだ。オオソリハシシギの研究者に声をかけられてさ。勿論僕は仕事で行くんだけど、二十四時間付きっ切りで鳥を観察してるわけじゃないし、それに滞在する予定の街に知り合いの金持ちが旅行に来てたって、誰も咎めたりしないだろうし……」 「つまり?」 「アラスカ、一緒に行かない?」  暇ならだけど。そう付け加えた後に俺を見つめる瞳があまりにも真剣すぎて、その上少し潤んでいて、俺の方が泣きだしてしまいそうだった。  ミッキーはすごい。俺は金をちらつかせて彼をこんなところまで攫ってきたのに、シンプルに真正面から口説いてきたのだ。  一緒に行こう、だなんて、なんて素晴らしい響きの言葉なんだろう。 「……いいのか? アラスカってやつは、アメリカ大陸の上の方だろう? さすがにイスラム圏じゃないよな? 俺はキミを抱きしめてキスしまくるぞ?」 「もう慣れたよ、それに僕の同僚は他人のプライベートより鳥が好きな連中ばっかりだ。勿論アンドレアが暇だったらの話で――」 「暇だ」 「……本当かなぁ……なんか、最近よく携帯鳴ってない?」 「俺の会社なんぞ、俺が居ない方がうまく回るんだよ。俺の電話を根気よく鳴らしているのは、あー……たぶん姉さんだな。エジプト土産を渡せば機嫌よくアラスカに送り出してくれるさ。たぶん」 「すごい小さい声でたぶんって言ったけど、まあ、アンドレアはダメなときはダメって言える人だと信じてるよ。……でも、あのね、実は……アラスカ行きの日程、来年なんだけどね」  甘く苦笑いを零すミッキーはやはり腹が立つほど可愛らしく、俺はとりあえず置き去りにしていた旅の終わりのセンチメンタルをさっさと追っ払ってすっかり無かったことにしてしまった。  来年。とりあえずアラスカ行きを終えるまでは、俺の旅は終わらないらしい。センチメンタルし損だが、勿論俺にとっては大歓迎の予定だった。  さて、結局この日、俺は勇気を出すことができなかった。しかもこの後三年は同じ告白をしようとして結局言葉を飲みこむクソ野郎を続けることになるのだが。  ……その話はまた今度にしないか? そんなことよりもミコノス島のペリカンを見てはしゃぐミッキーがいかにかわいく、愛おしく、愛くるしかったか。俺はその話の方がしたいんだよ。

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