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第2話
「ん、ふぅん……亀っつあんの鼻息が襞々を程よく刺激して、バッチグーだぞお」
「お褒めにあずかり恐縮……なのは、さておいて。亀、特有の帰巣本能が頼みの綱とは、とほほ」
媚肉というマスクをすっぽりとかぶせられた状態なのだから、窒息する危険と隣り合わせだ。そのくせ花筒の圧で頭部を揉みほぐされるのは満更でもない様子だ。ひれが攣 ったと称してのろのろ泳いでみたり、道に迷ったふりで外洋まで遠征してみたり。
さて海底に到着すると、そこが竜宮楼の入り口だ。〝おいでませ~〟の電飾看板が点 ればT〇Lもかくやとばかりに華やぐだろう。
丸みを帯びた建物の屋根は唐紅 、壁は白と、おめでたい。片瀬江ノ島駅の駅舎と瓜二つなのはたまたま! あくまで偶然なので、お目こぼしのほどを。
「うひゃあ、魂消た。豪勢なもんだ」
内壁が名残惜しげに窄まって亀の頭から下りるのに四苦八苦したのは、ほんのご愛嬌。ウツボとハリセンボンが両脇を固める門をくぐる。すると、すかさずスケスケの学ラン姿の三人組が我勝ちにしなだれかかってきながら名乗った。
「金色がかった、つぶらな瞳に海の神秘を感じないか。タイラだ、ようこそ」
「のっぺりした顔が微妙に左に偏ってるのが、なんとも言えず魅力的でしょ? はじめましてヒラリンでぇす、新入りくん」
「北国育ちの、ほーちゃんだよ? 得意技は、ぱっくんちょ。何をぱっくんちょするかは後のお楽しみ。よろしくね」
「おいら……いや、あっし……もとい俺は漁師の太郎っす。頑健なのが取り柄でイルカの交尾にも興奮する、花も恥じらうお年ごろ」
太郎は、へどもど応じた。三人ともいささか生臭いが、鼻をつまむどころか、むしろクンクンと嗅ぎたいほどだ。押しくらまんじゅうをするようにキュート男子にまとわりつかれるなど自分史上初めての出来事で、盆と正月が一緒に来た気分を味わう。
褌の中心が突っ張るのは当然で、視姦し放題のこの状況は、モテ期到来というやつだろうか。
キャッキャッうふふ、と広間に案内された。すると熱帯魚のラインダンスをガラス張りの円 天井越しに観賞するそこには、先客がいた。
ほっそりした肢体に薄衣 をまとい、サメの歯を並べて占いに耽っている。艶やかな黒髪が波打つたび玲瓏 と歌う。
太郎が生まれ育った村の男衆は、ほぼほぼ漁師とあって色黒のムキムキぞろいだ。
かたや先客は、たおやかで類い稀に美しい。しかし目つきは鋭い。疎ましげに太郎プラス三人組を睨 め据えると、自分のぐるりに結界を張るようにサメの歯を並べ替えた。
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