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第15話

 その点、太郎のおつむは、いたって単純にできている。拗ねちゃって可愛いの、とポジティブに解釈して駆け寄っていくほどに。すぐさま必殺の一撃が炸裂して、北氷洋の彼方まで吹っ飛んでいった。  まあ現地でイッカクを手なずけて、ちゃっかり竜宮楼まで送り届けてもらったが。 「勘弁してくれ。この通りだ、反省してる」  太郎は乙夜の足下に這いつくばった。蹴りのけられないということは、弁解の余地があるということ。そこで薄衣の裾に頬ずりしながら切々と訴えた。 「つい、ふらふらと審査とかいうのを受けにいっちまったけど純潔は死守した。ムスコは清らかなまま、桃尻のほうも進入禁止に徹した。嘘じゃない、本当だ」 「あっ、そ。べつにおまえが汽車ポッポの沼にハマっても、おまえの自由だし? ただ僕を『さらって逃げる』なんて二枚舌を使った罰を受けてもらわないとね」  と、()め据えてくるなり、乙夜は摩擦で火を(おこ)すように太郎の股ぐらにあてがった足の裏を猛スピードで動かす。 「いわゆる電気あんまの刑に処す」 「ひゅほほほ、タマがひしゃげる、(なか)にびりびりくる……あん、もっとぉ!」  初めて味わう種類の快感に病みつきになり、M奴隷に志願するようなのは、さておいて。  開楼を告げる銅鑼(どら)が鳴ったからには、乙夜ものんびりしてはいられない。ただし客がついたが最後、夜通し玩具にされるのは必至。  乙夜は楼のほうを眺めやって、きゅっと朱唇を嚙んだ。つまずいたふうを装って太郎に寄り添うと、すがりつくように着物の袖を一瞬つまんで離す。そして独り言めかして、殊更のっぺりした口調でこう言った。 「おまえの故郷(ふるさと)の村に遊びにいってみたくないこともないよ」 「俺の(ねぐら)のボロ屋も乙夜と俺……新婚さんにとっちゃ愛の巣だな、うん」  ドサクサまぎれの求婚に対して乙夜の返答や、いかに? その一、瞳を潤ませつつもにっこり笑って接吻してよこした。その二、スルーした。三、おととい来やがれ、と数枚重ねの瓦を割るほどのパンチを浴びせた。 ※作者が自分に課した枚数制限の関係上、ドラムロールが鳴って以降のやり取りについては割愛せざるをえないことを、ご了承くださいませ。  閑話休題、舞台は門に移る。足抜け──借金に縛られている男娼が逃亡を図ることをそう言う。つまり乙夜を伴って門をくぐるには、見張りを務めるハリセンボンとウツボの存在が厄介だ。それぞれ鋭い棘と尖った歯で武装していて、強行突破を図るにあたっては、血みどろの闘いを繰り広げる覚悟が必要なのだ。

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