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第16話

 太郎は、しなやかな手を握りしめた。自分たちの秘密兵器といえる恋の炎を、そうやって燃え立たせたのだ。ありったけの力で握り返してこられると愛しさが込みあげる。目縁(まぶち)に鮮やかなでっかい青タンと、唇に消え残る甘い余韻が万能感をもたらす。  実際に血の雨が降る展開になったときは俺が躰を張って──胸をはだけて門番コンビを悩殺して──乙夜が逃げおおせる時間を稼いでみせる。  ところでスフィンクスは通りかかった人になぞなぞを出してはミスった回答者を食い殺した、という。門番のコンビが、それを真似て曰く。 「正解すれば通してやらんこともない。朝は一本、昼は二本、夜は三本は、なあんだ」 「朝は健康のバロメーター的に勃ったちんぽを自家発電して、昼は相方とちんぽの背比べ、夜は3Pでちんぽの乱れ舞」 「夜なべして問題を作った甲斐があったわ。絶世の美少年の『ちんぽ』の連呼は、ごっつ、ええのう」 「役得ってことだね、協力した見返りは?」  乙夜が凄んだのを受けて、門はあっさり開いた。  恋し、恋されるふたりにとって、逃避行は婚前旅行の代名詞なのだ。手をつなぎ、マンタさながらの羽ばたくような泳ぎっぷりで海面をめざす。泳ぎ疲れたら海中温泉でひと息入れて背中を流しっこしたり(鼻血ブーの防止に太郎は目隠しして)、ゆったりと漂いながら微睡んで。  事あるごとに、そうしたい気持ちが爆発して唇をついばみ合う。マリンスノーが幻想の世界へといざなうなかで交わすくちづけは、程よい塩けも相まって癖になる。後を引く美味さのあまり、 「もう、しつこいってば」 「あと一回だけ、ホントのホントにあと一回」  唇をもぎ離すはしから結び目を割りほぐすありさまで、バカップル丸出しである。  さて水深数十メートル付近までは意外にすんなり逃げてこられたが、妓楼の掟に背いた男娼が、 「達者でな、餞別にリュウグウノツカイの燻製を持たせてやろう。効能は発毛促進、EDの改善と偽ればカモに高値で売れる」  などと快く送り出してもらえるわけがない。折しも、あたりがにわかに(もや)る。黒ずんだ螺旋を描いて視界を遮るものの正体は、墨だ。煙幕を張ったような状態を隠れ蓑にして、桁外れに長いがうねうねと太郎へと伸びて雁字搦めにしてのけた。  竜宮楼が放った追っ手その一、の仕業だ。 「うええっ、締まるう! 全身もムスコも、ふぐりも一緒くたに締まる!」 「童貞喪失の儀で、おまえのイチモツをあそこで締めつぶしてもいいのは僕だけ!」 「童貞喪失? 締めつぶす? ふぎぎぎぃ!」  太郎は声を弾ませる一方でガムシャラにもがいた。乙夜のほうは機転を利かせて、ひと抱えもある太さで十股に分かれたをくすぐった。

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