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第6話:そうじゃないんだよ

「えー!婦警さんとワンナイトですか⁉︎」 「バカお前、声がでかいっ!」 大声を張り上げた田中の口を咄嗟に塞いだ。 「す、すみません」 月曜になり、出社してすぐ田中にあの後大丈夫だったかと聞かれ、俺は思わずあいつとの経緯を話してしまった。 田中が大声を上げたので他の社員達の視線が集まり、急いで田中を廊下へ連れ出した。 「いやぁ〜まぁ失恋後はそうなっちゃいますよねぇ…自暴自棄というか……けど先輩、婦警さんとなんて…初っ端からなんかすげーっすね」 「すごくねぇよ最悪だよ…」 まぁ、田中には相手が男だなんて言えるわけもなく…。 あの後、松田大和と名乗った男と俺は連絡先を交換し、ゲロったお詫びに今度飲みに行く事になってしまった。 クリーニング代渡して終わりにしたかったのに、あいつは慣れた手つきであっという間にシーツを洗濯してしまったので、他に何で詫びたらいいと聞いたら「今度飲みに連れてってほしい」と言われてしまった。 「最悪って、その婦警さんなんかやばい性癖とかあったんですか?」 「違うよ…ああ…まぁもうこの事は聞かないでくれ」 「ええ?気になるじゃないですかぁ」 小さくジャンプをする田中を見て、俺は大きなため息が出た。 婦警さん……じゃねぇけど。 あいつが名乗った時、背後で風に揺れていた青いユニフォーム。 紛れもないあれは奴がポリスメンである証だ。 (警察と知り合うなんて……) ぶっちゃけ俺は酒の席で何度かお世話になってたりする。主に潰れて路上で寝てたりだけど。 「けどちょっとびっくりしました。先輩、飲みに行ってどんなに酔っても絶対“そういう事”しなかったじゃないですか?だから相当失恋が効いて――――」 そう言いながら、俺の肩に手を置く田中に哀れまれている気がするが、この際もう気にしないでおこう。 「それかよっぽどその婦警さんが綺麗だったとか…」 「そうじゃないんだよ……」 そうじゃないんですほんと。あの日の俺は狂ってたんです。 いや、失恋が効いて…ってのは合ってるのか。あの日あいつじゃなくても俺はああいった結果になっていたのかもしれない。 彼女がいた時は考えもしなかった。 酒の席で知り合った誰かと簡単にセックスするなんて。 「……先輩?なんか顔赤いっすよ?」 「……っ!」 田中に指摘されハッとした。 そうだ俺はあいつとセックスしたんだ。 男同士で……。 (バカか俺は。何思い出してんだよ…) 「ははーん、先輩その様子じゃ、婦警さんに惚れちゃいました?」 「展開早すぎんだろバカ、俺はそんな切り替え早い男じゃねぇ」 「いいと思いますよ!切り替え大事ですからね!」 「はいはい。つかそろそろ会社出るぞ」 「ういーっす」 面白ネタができたとテンションが上がっている田中を引き連れ、一旦オフィスに戻る。 今日は外回り終わった後、会社戻って書類まとめて、明日の会議の準備して…… 『俺の勤務先、太一の会社のすぐそこ』 (いかんいかんいかん…何また思い出してんだ俺は。別に近いからってそんなばったり会うわけじゃねぇし) って、こんな事を考えてる時点でフラグか?と一瞬考えたが、その後すぐ田中がアポの時間を間違えたと言い出し、遅刻が確定した俺達は現場まで全力疾走を余儀なくされたので、あいつの事なんかすっかり頭から吹き飛んでしまった。 (まぁ、連絡も来るかわかんねぇしな……あわよくばこのままフェードアウトできれば…)

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