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第7話:思い出は消せない
取引先との打ち合わせに30分遅れてしまった俺達は、到着後 先方に謝り倒しなんとか穏便に事は済ませてもらえた。
会社から電車で3駅離れた場所の駅付近のカフェで打ち合わせをし、二件目の打ち合わせ場所は会社の近くで、時間もまだあったから一旦会社へと戻っている。
田中はというと、俺の隣で吊り革を持ったまま、アポの時間をミスった事を気にしてずっと落ち込んでいる。
「気にすんなよ、こういう事もあるって」
「いやぁ…今回のは初歩的すぎて…先輩、ほんとすみません」
しょんぼりと肩を落とす田中。
俺も社会人なりたての頃はよくミスして謝ってたな。
幸い、その時の上司もめちゃくちゃいい人で、優しい言葉に心救われたのを覚えている。
田中はとにかく明るく元気いっぱいで、野球少年をそのまま大人にしたって感じの奴だ。
ま、髪は坊主じゃねぇけど。今時の若い子って感じで、たまに流行りのショート動画や音楽を俺に勧めてくる。
おかげで俺は割と流行にはついていけてる方だと思う。
普段落ち込む事の少ないメンタルお化けの田中がしょんぼりと肩を丸めている。
(うしっ……)
俺も田中にはいつも世話になってるし、可愛い後輩が落ち込んでる時こそ、先輩の俺が元気付けてやらなきゃな。
「よっしゃ、会社戻る前にコンビニ寄るぞ!コーヒーでも奢ってやるよ!」
「うぅ……せんぱぁい…」
「あ、てか仕事終わり飲みでも行く?パーっとさ!」
「…グスッ…すんません…今日は彼女と約束が」
「うぇ?あ、そうなの」
俺の反応を見て、嘘泣きをしていた田中がにんまりと笑った。
それを見て少しホッとした。
「けどお誘いありがとうございます、また別日ぜひ行きましょ!」
「言ったからな!明日でもいいんだぞ!」
「もちろん先輩の奢り…ですよね⁉︎」
「ぐぅっ…ったく、しょうがねぇなぁ」
今金欠だからやばいけど、田中があまりにも嬉しそうなので思わず俺も嬉しくなる。
(まぁ、俺も酒飲みたいし)
「あ、コンビニはちょっと俺も寄りたいんで行きますか!お金おろすだけなんですぐ済みます!」
「おう、んじゃ行くか」
駅に到着するアナウンスが流れ始める。
電車が止まり、下車したあとふたりで会社の近くにあるコンビニに寄ることになった。
「うわ!そっか今日ヨンデーの発売日だった!」
コンビニに入ると、田中は雑誌売り場を見て一目散に雑誌が置かれている棚の前を陣取った。
「すみません先輩、ちょっとだけいいですか」
「立ち読みするくらいなら買えよ」
「いや帰りに買います!でもこれだけ先読みたくて」
「はぁ……ちょっとだけだぞ」
そう言うと、田中は目を輝かせ雑誌を読み始めた。
お気に入りの漫画が今いいとこらしい。すぐ済む、がしばらくかかりそうだ。
田中が漫画を読み終えるまで、俺は隣で仕方なくグラビア誌でも眺める事にした。
(うわ……このグラドル元カノに似てる…)
ペラりと適当に開いたページに、真っ青な海を背景に白いビキニを着ている元カノそっくりなグラドル。
こんな胸おっきくなかったけど、顔のパーツとか、遠目で見たら元カノまんまってくらい似ていて、その瞬間一気に元カノとの思い出が頭を駆け巡った。
(今頃何してんだろ…)
元カノとの事を極力思い出したくなくて別れた日から連絡は絶っているし、家にあった元カノの荷物は全て返したから、こんな似てる人を見るだけで懐かしさを感じてしまう。
写真は……消せなかったけど全て非表示にして普段は見えないようにしている。
消そうと思ったけど消せなかった。
あの頃の俺の隣で幸せそうに笑う元カノが写った写真。
これを消してしまうと本当にもう終わってしまったと実感してしまいそうで。
(女々しいな俺……まだ全然好きじゃん)
思い出し、少し目の奥が熱くなってしまった。
「あれ、なんかあったんですかね?」
「いや!泣いてねぇーし!」
「え?あ、いえほら外」
「え?」
泣いてるのバレたと思い咄嗟に目元を拭ったが、どうやら俺の事を言ったのではないようだ。
田中が何やら外を指差し、その方向へと視線をやると俺は目を見開いた。
道路の向かいには一台のパトカーが停まっており、そしてそこにはーーー
あの、松田という警官。
奴の姿を見つけて背筋が凍った俺は、咄嗟に田中の腕を引っ張った。
「サツだ伏せろっ‼︎」
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