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第10話:悪魔と天使

「先輩〜、聞いてくださいよぉ」 次の日、朝のミーティングが終わった後、田中が俺の元に駆け寄ってきた。 「どうしたんだよ。彼女と喧嘩でもしたのか?」 「いや、彼女に同棲したいって言われちゃって」 田中の様子からして、喧嘩かと思ったが、返ってきた言葉に拍子抜けしてしまう。 「いいじゃん。一緒に住んだら」 「うーん…けどまだ付き合って一年ちょっとくらいですよ?早いと言うか…」 「付き合った年数って関係あんの?それか信頼できないとか?」 「…彼女の事は信頼してますけど」 オフィスに戻る前に、自販機でコーヒーを購入する。田中もどうだ?と指で合図したら、首を振られてしまった。 「信頼してるんならいいじゃん」 「けど向こうまだ大学生だし…」 「あー、そっか田中の二個下だったけ」 「はい。最近なんか疑われてる事多くて…。帰りが遅いとか、浮気してるんじゃないかとか」 「あーー…」 帰りが遅いってのは多分、俺と飲みに行ってる時の事だ。 コーヒーに口を付けながら、少し心が痛む。 「全然浮気とかしてないんですけど、やっぱ社会人と学生じゃ向こうは心配するもんですかね」 「まぁ、かもなぁ」 「先輩だったらどうします?」 「え?………俺かぁ」 田中に振られ、考える。 俺も元カノに同棲したいと言われた事はあったし、俺から提案した事もあった。けどお互いの環境や仕事の影響でタイミングが中々掴めず結局同棲しないままプロポーズ、という流れだった。 ーーー同棲してたら、どうなっていたんだろう。 「どうだろ。けどそれで向こうが安心できるなら、俺はするかも」 答えると、田中はそうですよね、自分なりにもう少し考えてみますと言って席に戻っていった。 田中も恋愛で悩む事とかあるんだな。と思った後、ハッと思い出す。 (…飲み誘いづれぇ〜) 今日飲む気満々だったのに、田中がああじゃ流石に誘えないよな。 「はぁ…今日もひとり酒かぁ…」 とほほ、と涙を流している時にスマホが光った。 通知が1件。警官からだった。 (やば…返信返してなかった) 昨日、最後にあいつから来ていた“田中って誰?”のメッセージを開いたのは通勤中の電車の中だった。 そのまま後輩って送ればよかったのに、昨日の酒が残っていてスマホを見ていると気持ち悪くなったので返信を後回しにしてしまっていた。 “もし会えたら連絡してほしい” 追加のメッセージはそう綴られていた。 「うわ…どうしよう」 俺の中で悪魔と天使の攻防が始まった。 『家でまたひとり悲しく酒を飲むより、誰かと店で飲んだ方が気分がいいぞ』 『ダメだ!ワンナイトした相手とはもう会わない方がいい!しかも男だぞ!警官だぞ!』 『田中だって男じゃん、別に次も一緒に飲んだからってヤるとは限らないだろ』 『でももし向こうが悪徳警官だったらどうするんだ!何か弱みを握られでもしたらーー』 『こないだは泥酔するまで飲んだからだろ?そこそこにしとけばなんの問題もない』 『ーーーー…』 そして、決着が着いた。 「お疲れ、太一」 俺は警官と飲みに行く事にした。 「……お、おう」 仕事終わりに、最寄駅で待ち合わせをした。 田中との飲みが無くなったので行けると連絡をするとすぐに返信が来て、“会えるの楽しみ”なんて言われた。 「平日だからそんな店混んでないと思うんだけど、太一、行きたいとことかある?」 「あー、近くにおでんが美味い店あるけど、そこ行く?」 「え、おでん食べたい。行こうよ」 こいつと並んでいると思う。通りすがりの女が振り返るほどのイケメン。 髪は割と短髪で黒髪。職業柄かな? 背は俺より5センチは高いと思う。下手すりゃもっと高いかも。 肌は綺麗で、整った顔立ち。 「ユ○クロのモデル?」 「え?」 「あ、いやごめん独り言」 危ねぇ。心の声が漏れてしまった。 とにかく、こんなイケメン警官。なんで俺と飲みになんか行ってるんだ? 「いらっしゃーい」 20時過ぎ頃、店に到着すると、店の大将に挨拶を済ませて奥のカウンターに座る。 店内は狭いけど、大将とも長い付き合いだし、昔ながらのおでん屋って感じの雰囲気が結構気に入ってる店だ。 何より日本酒がうめぇ。 「そういや、こないだはごめんな」 「ああ、全然いいよ。太一こそ、あの日あの後大丈夫だった?」 「まぁ、ちょっとしんどかったけど平気だったよ」 「それならよかった」 乾杯、と1杯目はお互いビールを注文した。 「あのさ、俺松田…君の事なんも知らなくて」 「まぁお互いあの日初めましてだったしね。てか下の名前でいいよ」 「え、あ……じゃあ…」 ビールを飲んだ後、警官はお通しに箸を伸ばした。 こんな近い距離で改めて見ると、男の俺でもドキドキしてしまう。 お通しを食べるだけでかっこいいとか、どんなんだよ。 「大和は、彼女とかいないの?」 そう聞くと、大和は箸を止めてこちらを向いた。 「いるって言ったら?」

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