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第11話:俺はノンケだ

さらっと言い払った大和の言葉に、俺はビールを飲む手が止まった。 そんな俺を見てか、大和は表情に罪悪感を浮かべた。 「いや、ダメだろ」 俺が言い放つと、申し訳なさそうに大和は目を伏せる。 「いるって言ったらもう会ってくれなーー」 「お前、浮気じゃん」 「え?」 続けて答えると、今度はビールを飲もうとした大和の手が止まった。 「浮気?こうして太一と会ってる事が?」 「違うよ、彼女いるのに俺とワンナイトした事だよ」 「ーーーーえ?」 (いや、『え?』じゃないよ…何、こいつ何言ってんの?みたいな顔で見てんの) 大和の爆弾発言を聞いて(聞いたのは俺だけど)、俺は思考が停止すると共に、とんでもない罪悪感に襲われてしまった。 一旦整理をしよう。こいつがイメケンでモテる事はもうわかってる。この見た目だもん。しかもポリスメンと来た。女が放っては置かないだろう。 けどまさかーーー 「うわぁ……俺浮気相手になったって事?ってかなら今こうして会ってるのもまずいよな。浮気になるよな」 ぶつぶつと呟きながら手で顔を覆い隠した。もうこの世の全てから消えたい気持ちになる。 直近で自分がされた死にたくなるほどの嫌な事。 まさか自分が浮気相手になるとは。 「マジで酔ってたとは言え……取り返しのつかない事を…はぁぁ…」 俺のばか。なんでこいつに今彼女がいない前提で話を進めようとしてたんだよ。 「……よし、頭下げに行こう」 「頭下げるって、どこに」 「決まってるだろお前の彼女のとこだよ。ワンチャン俺男だから多めに見てくれるかもだし、俺が執拗に迫ったって事にして、誠意を持って土下座と……あ、けどお前もしっかり彼女に謝れよ」 「待ってよ、太一落ち着いて」 「ダメだ今すぐ行くぞ!こんな呑気に酒飲んでる場合じゃねぇ!」 「待って待って、ごめん嘘だから」 「お前が行かないなら俺だけでもーーーー」 立ち上がり、ジャケットを羽織ろうとした瞬間、大和に腕を引かれる。 ほんで今、こいつなんて言った? 「………嘘?」 「ごめん、ちょっと太一の反応見たくてつい」 少し、意地悪そうに笑う大和。そんな俺達の前に、空気を切るようにしてカウンター越しに大根とこんにゃくのおでんが到着した。 ひとまず、俺は椅子に座り直した。 そして一口、大和が大根を口にする。 「嘘かよ‼︎」 「お、ほんとだ。ここのおでん美味いね」 こいつマジでなんなの。意味わかんない。なんでさっきの無かったみたいにおでん食えるんだよ。 俺の罪悪感返してくんないかな? 「何…じゃあ俺とヤッた時は本当にフリーって事?」 「うん。ほんとに今もフリーだよ」 「はぁ……よかった。俺浮気とかほんともう…そんなんで誰かを傷つけたくねぇよ…よかった…うぅ…」 「………太一は優しいんだね」 「はぁ?普通だろ。浮気とか絶対すんなよ」 「…した事はない?」 「当たり前だろ。まぁされた事はあるけど……」 「ああ、言ってたね泥酔してた日に」 「そうだよ…だからされた側のしんどさわかるしさ…どんな理由があっても、しちゃいけないよあんなの…」 「…………」 「とにかく、よかったわ嘘で」 大きなため息が出た。 安堵に包まれたところで、ようやくビールが喉を通る。 なんか気のせいか知らないけど、美味しい。 「いるって言ったら、太一はもう会ってくれないのかなって思って」 「そりゃ、お前とヤッたって前科あるし…ヤッて無かったら別にどうって事ないけど」 「どうってことない…ねぇ…、でも俺嫌われてると思ったから」 「うん?なんで?」 「だって昨日声かけたのに無視されたからーー」 「ブッ‼︎」 「うわ」 大和の言葉に、昨日の事が蘇り、口からこんにゃくが吹っ飛んでいった。大和はすかさずおしぼりを俺に差し出し、俺は有り難くそれを受け取る。 「や、え…そんな事あった?」 「声上擦ってるけど」 「…っ」 さすがポリスメンだぜ。俺の嘘を見抜いてやがる。 って、普通バレるわあんなん。俺あの時あからさまに反応してたし。 「あー、ごめん。なんか気まずくて」 「田中ってあの時一緒にいた人?」 「ん?ああ、そうだよ」 「後輩って、あの人とはヤッてないの?」 「はぁ⁉︎ヤるわけないだろ!」 「ふぅん…」 なんだ。さっきからこいつは何が聞きたいんだ。 「ねぇ、ほんとに俺今フリーなんだけど、フリーだったら太一はこれからも会ってくれるの?」 「え?…お、おう。飯行くくらいなら…まぁ」 「そっか。よかった」 「…?」 テーブルに向き合い、ビールを飲む大和が少しだけ笑った。 その横顔があまりにも綺麗で、男なのに見惚れてしまい、顔が熱くなる。それを誤魔化すために慌ててビールを一気飲みした。 彼女いないって、絶対嘘だろと言いたくなったが、どうしてか目を伏せて嬉しそうにしているこいつを見ると、嘘を言ってるようには思えなかった。 「でも太一の反応見て、俺が意識されてないってわかったから。頑張らなきゃな」 「え?何が?」 何を意識?と聞こうとした瞬間、大和が顔を近づけてきた。 咄嗟に体を引こうとしたが、腰に手を回され阻止される。 「俺、これから太一に猛アタックするから」 体に電気が走るような甘い声。 「覚悟しといてね」 そう言って笑う、目の前のイケメン。 「なっーーー」 「はは、赤くなってかわいー」 「おまっ」 「ごめんごめん。つい、ね」 全身が熱くて、きっとこの時の俺の頭からは煙が出ていた。 「あ、そろそろ日本酒でもいく?」 「……お…」 「ん?」 なんでこいつはこうも平然としてられるんだ。 「俺はノンケだ……」

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