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第13話:かっこいい男
“そっちもどうせ浮気してるでしょ”
これまでの恋人からはなぜか決まって、そう言われ振られてしまった。
告白というのはこれまで何度かされた事はあるけれど、どの付き合いも半年と持たず、別れる頃には相手に新しい恋人ができてるなんてザラだった。
もしかすると俺は、普通の恋愛が合ってないだけかもと思い、男と付き合ってみた事もあったけど結果は同じだった。
もちろん俺は浮気なんかした事もない。
俺なりに相手の事を好きでいたと思うし、大切にしていたつもりだったけど、何がいけなかったのか原因はわからないまま、その後も同じような付き合いばかり。
恋人に無関心な男だと思われたくなくて、最後に付き合った相手に浮気された時に問い詰めたりもしたが、“なんか尋問されてるみたい”と逆効果だった。
挙げ句の果てに最後には逆ギレされて“そっちもどうせ浮気してるでしょ”とお決まりのセリフを言われ別れるに至った。
バーテンが言うように、最初はみんな俺の事をタイプだから好きになったと言うが、中身を見て付き合ってくれた人がこれまでいたのだろうかと疑問さえ持つ。
だけど、隣のリーマンは浮気した彼女の事を本当に好きだったんだな。
浮気されたのに彼女を庇うような事言ってるし、別れても尚、彼女にいい男だったって思い出してほしいなんて。
バカかっこいいじゃんか。
『お兄さん、どうします?』
『え』
バーテンに呼ばれ、我に返った。
『次何飲みますか?』
バーテンにメニュー表を差し出され、目を落とす。
やけに隣が静かになったと思い視線をやると、リーマンはすっかり潰れてしまっているようだった。
『あー…。帰ります』
『え⁉︎せっかく静かになったのに⁉︎』
『あんた失礼すぎるでしょ』
そう言ってやると、バーテンはあははと笑った。
『この人俺が送りますよ』
『あっ、もうどうぞどうぞ!よろしくお願いします!』
『………じゃあ、会計で。一緒にしてもらって構わないんで』
会計を済ませ、隣のリーマンに肩を貸してやり外に出た。
大通りまでなんとかリーマンを連れて、タクシーを呼んだ。
なんとなく入った店だったけど、少し良かったかもしれない。この世の中、まだリーマンみたいな真っ直ぐで真面目な人がいるんだって思えたし。……バーテンはアレだったけど。
『ねぇ大丈夫?家わかんないからちょっと鞄見るよ?』
もう会う事もないだろうけど、あれだけ相手の事を思いやれる芯の通った人だ。
この人がいつか本当の意味で幸せになるといいな。
『ゔう〜ん…』
そんな事を思いながら鞄の中を探ると内ポケットに社員証が入っていた。
『うめはら…たいち……あー、あのビルの会社で働いてんだ』
って、社員証見ても意味ないのに。
住所が書いてある身分証を探そうと再び鞄の中を探ろうとした時だった。
『……どこ行くんだ?』
リーマンがぎゅっと俺の服をつかんできた。
そして目の前に呼びつけたタクシーが到着する。
『あんただいぶ酔ってるから、もう帰った方がいいよ』
タクシーのドアが開き、とりあえずリーマンを車に乗せようとしたけど一向に俺の服を離そうとしない。
『いやだ…帰りたくない…』
『たくないって…そんなワガママ言わないでよ』
『ひとりになりたくない……』
そう呟くリーマンが、俺を見上げた。
『頼むから…ひとりにしないでくれ』
『……っ』
酒で真っ赤になった顔に、涙で滲んだ瞳。
さっきまであんなにかっこいい事言ってたのに、そのギャップは反則だろ。
『ーーーじゃあ』
ああ、これはダメな気がする。
今引かないと、きっと俺はこの人を好きになる。
この人なら、俺の事をちゃんと見てくれる?
『俺んち、来る?』
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