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第16話:噂をすればなんとやら

正直、太一がまた会ってくれるかは賭けだった。 職場は近かったからどこかでばったり会うかもとは思ってたけど、仕事中にあの横断歩道で見かけた時に声掛けたらあからさまに避けられたし、気まずいだろうとは思ってたけどあれは少しショックだったな。 “田中と飲みに行く” 連絡も、普段ならああ言う時は引き下がるけど、気になってしょうがなかった。 その後の返事は既読だけだったし、そこで終わってしまったと思っていた。 “もし会えたら連絡してほしい” 期待はしてなかったけど、もう一度メッセージを送ると、太一から返事が返って来た。 こんなに嬉しいと思った日はなかった。 ビールから日本酒に切り替えると、太一は心底幸せそうに酒を飲み、気になっていた“田中”という人物の事を聞くとその話をし始めた。 「でさ、今日の会議で田中がうたた寝してて、それで課長がーー」 「………」 「な、なんだよニヤニヤして…」 俺の隣で今日あった事を楽しそうに話す太一。 口元にさっき頼んだおにぎりの米粒ずっと付いてるのに気付いてないし。 「いや、一生懸命話してるのかわいいと思って」 「はっ⁉︎」 「あと米粒ついてる」 「えっ⁉︎」 カッと赤くなる太一は恥ずかしそうに口元を拭う。 先刻、太一に告白まがいの事を言った俺に太一は一言「俺はノンケだ」と答えた。 そんなのわかってると伝え、とりあえず飲み友から始める事になった俺たちだが…… 「おま…早く言えよばか」 なんでそんなんでちょっと目うるっとさせるかな。 上目遣いもやめてほしい。下半身にダイレクトにクる。 「大和?」 「…ああ、ごめん」 これは太一を落とす以前に自分自身の理性との戦いの方が辛いかもしれない。 「ってか俺ばっか喋ってるけど、お前はどうなの?」 「え?」 徳利を持ち日本酒を注ぐ太一がチラリとこちらを見た。 「職場の事とかさ……まぁ、警察の事だから俺に話せるかどうかはわかんないけど」 「あー、まぁ話せない事もないよ」 「大和は交番勤務なの?」 「んー、とは少し違うかな。それは地域課で、俺は交通課。パトカー乗って取り締りしたりする方」 「……何が違うのかさっぱりだ」 「警察の中にも色々あるから」 「ふーん。周りに警官の知り合いとかいないから、なんか新鮮だな」 ニコッと笑い、また日本酒を飲む太一。 太一って話しやすい雰囲気があるよな。 職場の飲み会は基本的に相槌打つくらいだし、こうして職場以外の誰かと飲みに来るの結構久しぶりだったりする。 「仲のいい同僚とかいないの?」 「え?」 「ほら、俺みたいに田中みたいな後輩とか」 そう聞かれ、少し考えた。 「あー…いなくは、ないけど」 「けど?」 ふと頭に浮かぶ人物。けどあんまり言いたくない気もする。 うーんと頭を傾けると太一は俺の肩を小突いた。 「なんだよ、もったいぶって。女か?」 「いやそうじゃないけど……てか女だったら妬いてくれる?」 「……なんでそうなるんだよ」 「はは、冗談」 まぁ、話したところで太一とその人が会う事はないだろうし。 別にいいかと、日本酒を飲んだ瞬間、カウンターに伏せてあった俺のスマホに着信が入った。 画面に表示される名前を見た瞬間、思わず眉を顰めてしまう。 まさか、頭に浮かんだ人物からこんなタイミングで電話がかかってくるとは。 「電話、出ろよ」 「……ごめん、一瞬だけ」 「おう」 ごめん、と手で謝る仕草をした後、電話に出る。 「もしもーー」 『松田ぁぁ〜〜‼︎』 電話越しに大音量で名前を呼ばれ、思わずスマホを少し耳から離した。 『松田もう上がってるよね?助けてくれない⁉︎』 わざとらしく泣いているのがわかる。 これは、無視すべき電話だと思ったが、そうしたら後がめんどくさい事になる。 はぁ、とため息が溢れた。 「悪いですけど、俺今飲んでまして…」 『え?誰かと一緒?めっずらし〜!誰と飲んでんの?』 「…誰でもいいでしょ。切りますよ」 『あっ、わかった。じゃあその人も連れてきなよ!』 「ーーーは?」 『いつもの場所に居るからさ、一大事だから急いで来てよね!』 「ちょ、半田さーー」 ブツリと電話を切られてしまい、放心状態に陥る。 掛け直してみたが電源を切られたか応答なし。 どうしたものかと頭を抱えた。 「大丈夫か?仕事?」 「あ、いや…」 そんな俺を見て、太一は心配そうに首を傾げた。 太一とはまだ一緒に居たい。 けど、あの人の呼び出しを無視するのも後々めんどくさい… というか、あの人今日まだ勤務中だよな? 一大事って何があったのか……。 「大和?」 「………」 ーーーまぁ、ろくな事じゃないだろうけど。 「ごめん太一」 しばらく考えて、答えを出す。 「ちょっと一緒にいい?」 「?」 せっかくの太一との飲みなのに。 「多分、すぐ済むから」 これでくだらない事だったら、あの人ぶん殴る。

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