大和に連れられ、おでん屋から少し離れた商店街のとある青物店にやって来た。 出迎えたのは警官の制服を着た爽やかニコニコポリス。大和の先輩だと言っていた。 到着すると、大和とその先輩、半田さんが深刻そうに話し込んでいたから、これは俺が来るべきではないと思ったが、家の中へと通されると、そこではご年配のお爺さんお婆さんが昔ながらのちゃぶ台を囲み、酒を飲みながら人生ゲームをやっていた。 人生ゲームとか小学校の時以来で、お爺さん達も快く俺を受け入れてくれて、和気あいあいとゲームをしながら酒を飲んだ。 大和はなぜか半田さんを前に不服そうな顔をしていたが、やがて隣に座って一緒に酒を飲み始めた。半田さんと大和に囲まれ、ギュウギュウ状態での人生ゲーム。 制服のままの半田さんがこんなところで酒飲んでゲームしてて大丈夫なのかと疑問に思い大和に耳打ちすると、大和は一言「いつものことだから」と言ってため息をついていた。 なんか、あんま深く聞かない方がいい気がする。 「あら〜、まさかのこばさん大逆転かね」 ゲームを始めて１時間が経過した頃、こばさんこと小林さんがビリケツからのまさかの大逆転。どんでん返しでゴールに辿り着いた。 「はぁ〜、これは俺がビリですか…」 「まだわからんよ梅さん」 「そうそう、人生何があるかわからないから面白い」 うんうんと、俺の左側に座る半田さんが頷く。 人生何があるか……確かにな。 なんだか、失恋で人生に絶望していたのが馬鹿らしくなる。 目の前でニコニコと楽しそうにボードゲームをする小林さん達。 こんなに心がほんわかするのは久しぶりだ。 なんて思っていると、ぶるりと体が震えた。 「ちょっとすみません、お手洗いって…」 おでん屋から一回もトイレにたってなかった。トイレ行きたい。 「ああ、えっとーー」 「僕案内するよ」 大和よりも先に、半田さんが立ち上がる。 「松田、僕の番の時 代わりに回しといて」 「え、…………はい」 長い間の中で、大和は少し不安そうな顔をする。 「半田さん」 大和が半田さんの名前を呼ぶと、半田さんは大和の方へと振り向き、にこりと笑った。 その、目だけのやり取りがなんなのか、俺はわからずにいた。 「どう？楽しめてる？」 廊下に出ると、前を歩く半田さんにそう聞かれた。 半田さんの声は優しさを纏っているようで、なんだか落ち着く。 多分この声で絵本でも読んでもらったらあっという間に寝落ちできそう。 「はい。みなさんいい人で…見ず知らずの俺なんかを呼んでくれてありがとうございます」 「ふふ、こちらこそ。僕、この街の出身で昔からみんなによくしてもらってるんだ」 「地元の交流っていいですよね〜」 なんて、呑気に考えながら廊下を歩いた。 玄関まで戻り、手前で左に曲がる。その突き当たりがトイレのようだ。 「そういえば、梅さんは出身どこ？」 「えっと、俺は隣のY市出身でーーー」 トイレに辿り着き、ドアを開けようとした瞬間だった。 「は？」 ドン、と開けかけのドアが閉まる。 「え……？」 一瞬、何が起こったのかわからなかった。 どうしてトイレのドアが開かないのかと不思議に思うと、右肩に半田さんの黒い髪が触れ、後ろからドアを開けるのを阻止された事に気付く。 「なんだ、僕や松田と同じK市じゃないんだ」 さっきまでとは違う、少し低い声。 「え？あの…半田…さん？」 空気が一変し、突然の緊張感に襲われる。 少し振り向けば、すぐ近くに半田さんの顔があった。 大和と同じくらいの背丈で、半田さんの雰囲気の変わりようにビビりまくる俺は防衛本能か、何か危険な香りを察知し、身構えた。 （なんで？何が地雷だった？今話してたの出身地だけだよな…） 「な、なんか怒って…ます？」 ブルブルと声が震えた。 それほど、今目の前にいる半田さんから恐怖を感じる。 「K市じゃないと、何か問題が…？」 「そうだね〜。そうだと嬉しかったなぁ…残念」 半田さんの顔に、影が落ちる。 どうしようか、と呟く半田さんがまるで殺し屋に見える。 尚も、ブルブルと震える俺。 尿意と合わさって今にもちびりそうだ。 半田さんって、お年寄りに優しくて、爽やかにこにこポリス……だよな？ 「はぁ…うん。そうだね」 恐怖で震える俺を前に、半田さんは考え込んだ後、顔を上げてにこりと笑った。 「とりあえず、死ぬ？」