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第19話:1時間前の俺よ

俺は今日も飲み過ぎたのかもしれない。 「え?…死…?…ん?」 幻聴が聞こえた気がした。 だってそうじゃないとおかしい。 「僕さ、よそ者って嫌いなんだよね」 さっきまであんなにキャッキャウフフだった人が、こんな黒いオーラで笑ってるなんて別人としか思えない。 「よそ者って…隣の市だし同じ県民同士じゃ……ない、です…か」 あははと流そうとすると、鋭い目つきで睨まれ声が小さく消えていく。口元が笑っているのが余計に怖い。 「この僕に口答えなんていい度胸だね」 「ヒィッ」 こ、怖過ぎるよなんだよこの人! 人ひとり殺ってんじゃないのかってくらい闇オーラに包まれてんだけど⁉︎ てか、なんで出身違うだけで人が変わったみたいにキレてんの? なんで?俺なんか悪い事した?何の罪ですか? 「っ……」 …というより…… とりあえず一旦、トイレに行かせてくれないかな⁉︎ 「ああ…そうだった」 体をよじる俺を見て、まるで闇堕ちしたかのような半田さんは視線を俺の下半身に向け、小さく口を開いた。 「行きたい?限界そうだね」 「っ!」 俺の息子を指差され、俺は咄嗟にドアの方へと体の向きを変えた。 ガチャガチャとドアを開けようとするが、後ろから伸びた半田さんの手がそれを許さない。 「マジで俺トイレしたいんですけどっ」 「何で君にこばさんちのトイレ貸さないといけないの」 こばさんちのトイレだからいいだろうっ‼︎ どうして半田さんの許可ないと使えないみたいになってんの⁉︎ 本当に何で、誰⁉︎ 神様教えてこの人は一体何なんですか⁉︎ 「ほんと…勘弁して…っ、話は後でいくらでも聞くんで!」 「君と話す事なんてもうないよ」 「っ⁉︎」 身震いする俺の後ろから、もう片方の手が伸びる。 「ちょ…ちょっ」 「もうここで出しちゃえば?赤っ恥かいて松田の前からも消えなよ」 「ちょっ‼︎」 もう爆発寸前の俺の膀胱と“それ”をせき止めるために頑張っていた息子。 半田さんがズボンの上から撫で、体がぞくりと震えた。 ダメだ。今力を抜いたらやばい。 「あっ…、っ…ほんと…やめ」 何でこんな事を… 「あは…声出すと誰か来ちゃうよ?」 「っ、ふ…ぅ…」 1時間前の俺よ。悪い事は言わない。ここには来るんじゃない。 爽やかニコニコポリスだと思って惑わされるな。 「ぁ…うっ…」 「頑張るねぇ…そう言うの嫌いじゃないよ」 こいつは、とんでもねぇサイコポリスだ‼︎ 「もっ……げんか、い…」 背後からガッチリとホールドされ、息子を弄ばれ、力を入れ過ぎて足がガタガタと震え始める。 俺、28歳にして、こんなとこで漏らしてしまうのか。 「ほら、出しちゃえよ」 「っ‼︎」 耳に息がかかる。ヒヤリとした舌の感覚が耳たぶに伝わる。 体の力が、抜ける。 「うっ…う…」 誰か、誰か頼む何でもいい。助けてーーー 「おい‼︎」 もうダメだと、目を閉じた時、大きな声が廊下に響いた。 それと同時に、俺を後ろから覆っていた半田さんの体が離れたのがわかる。 間一髪、漏らす寸前のところで助けが来たようだ。 「遅いと思ったら…何してんですか」 言うまでもない。助けに来てくれたのは大和だ。 「半田さん、これってどう言う事?」 半田さんは依然として闇オーラを纏っている。 「何って、遊んでただけだよ」 そして見せる、黒い笑顔。 「へぇ。松田のそんな怒った顔見るの初めてかも」 「ふざけないでください」 「ええ?ふざけてないよ〜。ね?梅さん」 このサイコポリスの言ったように、松田もひどく怒ってるようだった。 いや、今はそんな事どうでもいい。 「太一、大丈夫?」 「も……」 「“も”…?」 もうまじで漏れるから、勘弁して。

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