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第21話:犬のお巡りさん
結局その日は大和と雑談しながらそのまま駅で解散した。
話題と言えば半田さんの事だったけど。
半田さんにだけ辞令がない、って…逆に噂が大物政治家の隠し子だとか言われてるんだったらむしろキャリア組の方に回されるんじゃないのかと思い尋ねると、半田さんは今勤めてる交番が気に入っているようで、警察組織の上の者が半田さんの意思を尊重してる、かつ問題を起こしてもほぼ処罰されていないところがそう言った噂が立つ原因のひとつだと大和は言った。
まだ会ったばかりだけど、確かに半田さんはこばさんやトミさん達とすごく仲が良さそうだったし、仕事中なのにゲームしながら酒飲んでたし…
平気そうなところを見るとあんなの日常茶飯事なんだろう。
大和には仲良くしてほしい、なんて言われたけど……
「そもそも…次も会うなんてあるのか?」
俺、相当嫌われてたみたいだし。
満員電車の中で、人に揉まれ揺られながら悶々と考える。
明日も仕事だ。なんか、なんだかんだで今日も疲れた。
電車が家の最寄り駅に到着する。時間を確認しようとスマホの電源ボタンを押すと、同時に大和からメッセージが届いた。
“今日はありがとう。色々あったけど楽しかった”
パッとしない文字だけのメッセージ。俺もありがとうと返信しようとした時、追加でスタンプが送られてきた。
「……なんだこのスタンプ」
送られてきたスタンプを見て、思わず口元がにやけてしまった。
目の焦点が合ってない犬が舌を出して敬礼をしているスタンプ。
はぁーん、犬のお巡りさんってか。
にしてもこの犬の顔…
「あいつこんなん送るタイプなんだ」
普段はスンとしてるからクールっちゃクールだけど、連絡割とマメと言うか。
多分彼女とか大事にするタイプなんだろうな。
大和がこれまで付き合ってきた人って、どんな人なんだろう。
あいつ真っ直ぐだし、優しいし…なんで彼女いないかマジで謎なんだけど。
『俺、これから太一に猛アタックするから』
って、どうしてあいつの言葉を思い出すんだ俺のばかっ‼︎
「ふぅ…」
気持ちを落ち着かせ、大和に返信する。
ついでに俺も持っていた今大人気のちょいかわのスタンプを送ってやった。
そしたらすぐに既読が付きビクリとする。
スマホに張り付いてんのかと、心でツッコミを入れておいた。
スマホ片手に家までの道を歩く。
街灯を曲がれば住んでるアパートだ。
夜風が気持ちいい。ほんのりと春の匂いがした。
「はぁ〜なんだ俺大丈夫じゃん」
季節の匂いがこんな心地いいと感じれるなんて。大和と知り合ってからか元カノの事もさほど考えなくなった。
普通に生きていけてるじゃん。
トミさんが言ってたように、人生何があるかわからないから面白い。その通りだ。
半田さんは最近出会った人の中で一番謎で怖すぎたけど、まぁ…大和が言うのならきっといい人なんだろう。
警察の事とか何もわかんないけど、俺の知らない世界がまだまだあるんだなぁ。
なんて、夜空に向かって背伸びをしながら呑気に考えていた時だ。
不注意で俺はすれ違う男と肩をぶつけてしまった。
「いっ‼︎」
「っと、すみません」
男が咄嗟にひと言謝ってきたので、俺も反射的に謝罪をする。
「いえこっちこそ前見てなくて…」
すみません、と付け加えようとしたら男はぺこっと頭を軽く下げた後、そそくさとその場を去ってしまった。
薄手の上着に付いたフードを深々と被っていて、顔はよく見えなかった。
街灯に照らされた一瞬だけ、風に靡かれフードから金色の髪の毛が見えた。
(あんな人近所にいたっけ……)
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