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第25話:ここはどこですか

俺の人生一体どこからこうなったんだっけ。 両親はいない。顔すら知らない。孤児院で育ち一時期はこんな人生でも頑張って生きてみようかって頑張ったけど、世間の風は決して優しくはなかった。 中学、高校といじめに遭い、その反動でか孤児院で問題を起こす事が増え、院でも孤立するようになった。普通に頑張って生きたかっただけなのに、頑張るのがバカらしく感じ、やがて反抗心から万引きやスリに手を出してしまった。 不良と連む事が増え、警察沙汰になる事もあった。 高校を中退するともう後はダメだった。院に帰る事もなくなり、18になって正式に俺が出て行く事になった時の孤児院の連中の顔は忘れられない。 やっと疫病神がいなくなったとホッとしている顔だった。 今日食う飯代もあるかわからないそんな生活の中で、スリでなんとか食い繋いでいた時、運良く逆ナンしてきた女に飼われる事になった。 ヒモという生活は最上級の暮らしを俺に与えてくれた。 ようやくマシな人生になってきたと思えたのにこのザマだ。 あのリーマンに言ってやりたいよ。俺の人生に比べたら、失恋なんて可愛いもんだと。 いつからこんなクソみたいな人生なんだろ…… (ああ、生まれた時からか…) 「う…っ…」 後頭部が強く脈を打ち、割れるように痛い。 重たい瞼を開くと、白い床が見える。 「…どこだ…ここ」 狭い部屋の中に、パイプ椅子と長机が置かれている。 俺はパイプ椅子にロープでぐるぐる巻きにされてる。おまけに足首と手首が拘束されていて、身動きが取れない。 ぐるっと部屋を見渡す。 プレハブ…のような部屋だった。窓には目張りがされていて、窓ガラスの向こうは森だ。 「最悪だ…」 自分の置かれてる状況が理解できると、大きなため息がこぼれる。 ヘタうった。やばい連中に捕まってしまった。 俺、今日死ぬのか。 「お、起きてんじゃん」 ガクッと頭を落とし絶望を噛み締めていると、引き戸の開く音と男の声。 入り口から入ってきたのは黒いスーツを着た短髪頭で強面の大男。手にはビニール袋。 あれ、そう言えば俺を殴ったのは警官…だったはず。 明らかにこの男ではない。 つか、警官に殴られるって…まじでどういう事? あの人一体なんだったんだ? 「あ、あの…」 「頭、どう?」 「え…」 男は長机にビニール袋を置いて中からカップ麺やお茶などを取り出し始めた。 まさか初手で、頭どう?なんて聞かれるなんて思わなかったから少し驚いた。 「あいつ本気でやっただろ。死んでてもおかしくないのに生きてるなんて、お前相当頑丈だな」 ゆっくりとした口調。もっと掴み掛かるくらいで有無を言わさずボコボコにされると思っていたのに… もしかして、弁解の余地ある?まだ生きれる可能性あったりする? 話し合いのできるヤクザさん…だったりする? 「あの俺ーーー」 「チッ、そういやここお湯ねぇじゃん」 「………」 「ああ悪い。何?」 カップ麺を食べようとした男は部屋にポットがない事に気づき舌打ちをかます。 たった一瞬の男のイラつきにビビってしまった俺は言葉が喉に詰まってしまう。 「何?」 「あ、や…」 目を逸らすと男は立て掛けてあったパイプ椅子を持ち出し、俺の前に座った。 顔を覗き込まれる。 「いっ‼︎」 下を向いたままでいると急に後頭部を掴まれ痛みが走る。 「血、は止まってんな」 「いてぇって‼︎」 「悪い悪い」 思わず大声を上げ頭を振って振り払ってしまう。 男は少しキョトンとした目で俺を見ていた。 「あの、俺がやった事でそちらが怒ってこんな事になってんすよね…」 痛みのせいか、この状況のせいか。もうどうでも良くなってきた。 イライラする。なんで俺がこんな目に。 「悪かったと思ってますよ‼︎けど、俺も生きるにはしょうがなかったというか」 「別にそれ自体に怒ってるわけじゃないけど」 「ただ言っときますけど主犯は俺じゃーーー…」 ーーーん? 今なんて? 怒ってない? は? 「……怒ってないって…どういう」 「ああ、まぁ…こっちも色々複雑でよ」 「は?…」 目の前の男は何食わぬ顔でペットボトルのお茶を飲み始める。 男が言った意味が分からない。 俺みたいなチンピラにシマ荒らされて怒ってるんじゃないのか。 だからこんな、今にもこの場で殺されそうな状況に俺は陥っているんじゃないのか。 「やっとか」 どういう事だよ、と口に出そうとした瞬間、男がスマホを取り出し呟く。 ガララ、とまた引き戸が開く音がする。 「ごめん遅くなった〜。こばさんに呼ばれちゃって」 爽やかで優しさを纏ったような声。そして気を失う直前に聞いた、あの警官の声だ。 「あ、生きてた。よかったー」 自分が殴って気絶させたのなんか忘れたみたいに、俺を見てにこりと微笑む、あの暴力ポリス。

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