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第29話:図星(松)

「松田ぁぁぁ‼︎待ってたよぉ‼︎」 「………」 半田さんに呼び出され当直明けに交番に着くや否や、勢いよく飛びつかれ頬擦りをされた。 「離れてください」 「冷たいっ」 擦り付けられる半田さんの顔を手のひらで押しのけ距離を取る。 昨日、別の現場の応援に駆り出され長い時間残業となった。合間に半田さんから「時間がある時電話してほしい」とメッセージが来ていたから電話をすると、太一の財布の事について話された。 財布の事は太一から無くしたと聞いて、太一はひどく落ち込んでいる様子だったから、見つかったと知り安心した。 太一には俺から連絡を入れ、この後、打ち合わせの帰りに取りに来るそうだ。 それまでは半田さんと二人きり。 「財布、どこで見つけたんですか?」 「商店街の外れの路地に落ちてたって言ってたよ〜優しい青年が届けてくれたの」 「へぇ。いい人が拾ってくれて良かったです」 俺がそう言うと、「だよねー」と笑う半田さん。 なんだかいつもより機嫌が良さそうに見える。 「梅さんから僕の事聞いてる?」 「え、何がですか?」 急に聞かれた質問。なんのことかわからず疑問を持つ。 眉を顰めた俺を見て、半田さんは目を伏せて小さく口を開いた。 「…言ってないのか」 静かにそう呟く半田さん。呟いた言葉を聞いて少し焦る。 「だから、何をですか?半田さんまさか太一に何か…」 「してないよ〜!ほんとに!」 「………」 「いやぁ、まぁちょっとね。こないだ交番来てくれた時に少し意地悪言っちゃったから」 「何かしてるじゃないですか…」 「えへへ〜」 はぁ、とため息が溢れた。 本当に、半田さんは人懐っこい反面人付き合いで難ありなとこあるから。俺も人の事あんまり言えないけど。 太一との相性心配してたし、太一本人も気にしていたから二人をあまり会わせない方がいいのかなとも思ったけど… 「財布、ちゃんと教えてくれてありがとうございます」 「当たり前だよ。まさか僕が返さないと思ってた?」 「まぁ、少し」 「ひどいなぁ〜」 半田さんが冗談っぽく大口を開けて笑うと八重歯が覗く。 言った通り、少し心配していた自分がいた。この人ならそんな子供じみた事もしそうだし。 「松田が喜ぶかなって思ってね」 この人の性格とこれまでの経験を元に過去の事を思い出していると、ふと半田さんがそんな事を言う。 「俺が?」 「うん。正直梅さんの事、僕はまだ認めてないよ」 「ははっ、認めるってなんですか?」 あまりにも半田さんが真剣な声で言うから思わず笑ってしまった。 そんな俺を見て、今度は半田さんの真剣な目が向けられる。 「松田、梅さんの事好きでしょ?」 トン、と半田さんの人差し指が胸に当たり、心臓がどく、と脈を打つ。 覗き込まれるその瞳に俺が映った。 「は……」 「図星。わかるよ。僕松田の事好きだもん」 「好きって」 半田さんが言う俺の事好きはおそらく後輩として、だろう。それはわかっている。 問題はその前だ。やっぱりこの人は鋭い。 いずれはバレるだろうとは思っていたけどこうも早く気づかれるなんて。 もしかして俺ってわかりやすい…? 「松田には幸せになってほしいと思うよ。でも、彼はやめといた方がいいんじゃない?」 「……なんでそんな事」 「だって彼、“違う”でしょ?」 「………」 また見抜かれる。違うと言われ下を向いてしまった。 確かに、太一はノンケだ。 あの日は酒飲んでたし、心も弱っていたからああなっただけで。 いや傷付いた太一に付け込んだのは俺か。 「松田がしんどいだけだよ。僕は大事な人が傷付くとこ見たくない」 「心配してくれてありがとうございます」 「本気で言ってるんだよ。これまでの人だって松田の事全然わかってなかったじゃん」 「………」 そう言われ、頭に浮かぶのは過去の恋愛。 いちいち半田さんに報告とかはしてなかったけど、付き合って別れるを繰り返す度に半田さんの耳には逐一俺の状況が届いていて、その度に元気付けてくれてたりする。 だからこの人には俺も感謝してるし助けられたところも多い。 今回は初めてのケースだ。 向こうからじゃなく、俺から好きになるなんて。 しかも相手はノンケ。 「俺は大丈夫ですよ。それにもし上手くいかなくても、それはそれで受け入れるつもりです」 「………」 驚いたな。この人がこんな真剣に俺の事心配してくれてたなんて。 「はぁ〜。松田がそう言うなら」 「じゃあ、協力してくれますか?」 「協力ー?」 「太一と仲良くしてください」 「………」 ニコッと笑いかけてみると半田さんは露骨に嫌な顔をした。 「……考えとく」 そして半田さんがそう答えたところで、太一が交番に到着した。

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