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第30話:引いてばかりじゃ

受け取りの書類手続きが終わり、太一と交番を出た。 終始、太一は半田さんの機嫌を伺っていて、帰り際に半田さんが太一に笑いかけるもどこか警戒している様子だった。 さっき俺がお願いしたからか、半田さんの太一への態度は特に問題なかったが、太一はまだギクシャクしていた。 「はぁ〜良かったぁ。俺の財布おかえりぃ〜」 交番を出ると太一は財布を高らかと天に掲げ涙する。 (かわいい…) 困った。さっき半田さんに言われてからか余計に意識してしまう。 俺ってこんなだったっけ。 「ん?どした?」 「ううん。なんでも」 見てたのに気付かれ、咄嗟に誤魔化した。 交番じゃあんなビクビクしてたのに俺の前だとこんな大袈裟に喜んでる太一を見ると少し胸の奥がくすぐったい気持ちになる。 太一はほんとに表情が豊かで見ていて飽きない。 あの夜からこれといって進展はない。太一はノンケだからあんまガツガツいって嫌われるのは避けたいけど、ノンケだからこそ気持ちが焦る。 『だって彼、“違う”でしょ?』 半田さんの言葉を思い出す。 このまま、本当にただの飲み友みたいな…友達の関係で終わってしまうのは嫌だ。 「半田さんまだ怖いけど大和が言ったみたいにいい人かもなぁ」 「………」 どうしたら太一は俺の事を意識してくれるんだろうか。 「………」 「大和?」 「あ、ごめん」 俺の数歩先を歩いていた太一が立ち止まり振り返る。じっと見つめられると、じわりと胸が痛くなる。 嫌われたくないし焦らせたくない。 けど、攻めたい。 「太一」 「ん?」 太一の前まで足を進め、手を握ってみる。 「えっ、な、何?」 俺が取った行動にびっくりしたのか太一の顔が少しだけ赤くなる。 「この後まだ時間ある?仕事残ってる?」 「え、あ…まぁ今日はもう終わりだけど」 親指で太一の手の甲を撫でた。すると太一は少しだけびくりと体を震わせる。 「大和…?」 健全な関係から、なんて思っていたけど、どの道一回しちゃってるし。 俺は毎日思い出す。あの夜俺に向かって縋りながら身を預けて善がる太一を。 「手、嫌じゃない?」 「…嫌というか…急にどうしたんだ?」 「はは、太一ってもしかして鈍感?」 「え?」 「ううん。なんでもない」 この反応。ほんとに分かってないみたいだ。 けど、よく見ると耳が赤い。全然意識してないってわけではなさそう? 「俺、きっとこれからこんな風に触ったりすると思う」 「へ…」 「だから、嫌な時はそう言ってほしい。そしたらやめる」 「………」 ぎゅっと手を繋いだまま歩く。人通りが少ないからか太一は手を離す事はなかった。 横目で見ると少し困った顔はしていたけど。 多分俺が傷付かないように言葉を考えてるのかなって思った。 申し訳ない気持ちもするけど、引いてばかりじゃ何も始まらない。 「その…気悪くしたらごめんなんだけど、こないだお前がおでん屋で言ってたのって、本気?」 「本気だよ」 「そ…か…。それってつまりさ、俺の事…す、す、好き…って事?」 「………」 恥ずかしそうに視線を外しながらそう口にした太一。 そしてそれを言われて俺は立ち止まる。 そうだ。俺はまだちゃんと言ってない。 「わっ」 腕を引き寄せ、向かい合わせになるように体を密着させた。 すぐ近くに太一の顔があり、真っ赤になった太一と目が合う。 「好き」 「っ…」 「俺、太一の事好きだよ」 「…ぁ…」 ああ、この反応。大丈夫だ。 「ねぇ太一」 太一もちゃんと俺の事意識してる。 「今日は俺んちで飲む?」

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