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第31話:けど?
太一は下を向いて少し黙った後、小さく頷いた。
それからふたりで買い物を済ませ俺の家で飲む事になったわけだが。
「緊張してる?」
「えっ」
好きだと伝えた後から、太一は顔真っ赤だし、口数も減った。
緊張してるか聞くと、「少し」と返事をした太一は缶ビールを仰ぐ。
正直なところも好きだな。とふと思った。
しばらく隣で見つめていると恥ずかしそうに視線を逸らされる。
緊張を解すためか太一の酒を飲むペースは早かった。
「大和はさ、なんで俺なの?つか…俺の何がいいわけ?」
4本目の缶ビールを開けたところで、すっかり酒が回り目がトロンとし始めた太一がそう呟く。
そして太一が言った言葉を考えた。
「真面目で芯が通っててかっこよくて、ちょっとドジで表情豊かでかわいいとこ、とか?」
「うわ、自分で聞いといてなんだけど恥ずいな…」
「嫌じゃないの?」
「何が?」
太一はノンケなのに、男の俺に好かれるなんて。
気持ち悪かったり、嫌だと思われてもおかしくはないのに、こうしてふたりきりの部屋にまで来て。
太一は優しいから、もしかしたら断れなくて気を遣ってるのかもしれない。
そんな事を思っていると伝えると、少し呆れたような顔をされた。
「お前なぁ…別に俺は気持ち悪いとか思ってないよ。そりゃびっくりはしたけど」
「けど?」
「……まぁ、俺は付き合った事あんの元カノだけだからよ。恋愛経験少ない方だし…それに本当にお前が俺の事好きでいてくれてるんなら俺も真剣に考える」
「………」
そう言った太一はまた一口酒を飲む。
俺はと言うと、きっと少し驚いた顔をしてると思う。
だって、やっぱり太一はかっこいい。
「俺なんかお前にもったいないと思うけど…」
「はぁ…。ほんとそういうとこだよ」
「え?」
自覚ないからほんとにずるい。
わかってない様子で俺は頭を抱えた。
太一が心配だ。いい人すぎて騙されないか。もっと警戒してもいいはずなのにちゃんと向き合おうとしてくれてる。
「けど返事はもう少し待ってほしい…かも。まだわかんなくて」
「うん。わかってる。無理にとは言わないからゆっくり考えてよ」
「ん。その、男同士の付き合いについてもちゃんと知ってから考えたいから」
「やっぱ真面目」
「悪いかよ」
「全然。嬉しい」
「………」
言われた事が嬉しくて笑ってしまう。そんな俺を虚になる目で睨んだ後、ふいっと視線を外されてしまった。
かわいいな、なんてまた笑ってしまう。
太一の横髪が揺れ、頬に触れると視線がこちらに向いた。
向けられたその目を見ると体の奥がぞくりと震える。
そして頬に触れた手を太一が掴む。
「嫌?」
「…嫌じゃないけど」
「けど?」
じわりと熱が手から伝わってくる。
少しだけ体を太一の方へと寄せて肩を当てると太一はびくりとする。
「けど何?」
「あっ」
下を向いたままの太一の顎を掴みこちらを向かせると、酒のせいか俺のせいか、真っ赤になった顔で目を潤ませていた。
恥ずかしそうに俺の手を振り払いまた下を向く。
「嫌なら言って。じゃないと俺…」
わかっていたはずだ。俺の家に来るのがどう言う事なのか。
それでも尚、拒絶しないなんて期待しちゃうじゃん。
「太一」
もう一度顔を近付けると背もたれにしていたベッドがギッと鈍い音を立てた。
「キスしていい?」
「…っ」
耳のすぐそばで脈打ってるみたいに、心臓の音がいつもより煩い。
「嫌?」
「………」
触れるか触れないか、太一の後頭部に手を回し顔を近付けると太一はぎゅっと目を閉じる。
「嫌じゃない…けど…っ」
俺の胸を掴む太一は声も震えていた。
「けど?」
その後すぐ、俺は返事を聞かないまま太一にキスをした。
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