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第2話

別に、特別な話ではない。 ノンケの親友を好きになっただけ。 “恋人”にはなれないが“親友”として隣にいることが許されるのであれば、それで構わなかった。 隣にいられるなら、目を瞑れた。 だって、1番近くだったから。 隣だから。 だけど、もう、そうではない。 自分の居た隣には、可愛らしい笑い方をする華奢な女の子がいる。 張り付けた笑顔の奥はボロボロだ。 帰りたい。 だけど、もっと親友を……匠真を見ていたい。 匠真のしあわせな瞬間に立ち会えることを許されているのだから。 せめて、見ていたい。 好きだから。 そんな気持ちで参加したくもない結婚式の二次会に来ているんだ。 「ちーぐさ」 「匠真」 大好きな声に顔を上げると、しあわせそうな親友が隣へと座った。 遠慮のいらない関係。 大好きな距離感。 だけど、いつもと違う。 邪魔をするものがある。 ふわふわと香る甘いにおいは新婦の香水だろうか。 似合ってない。 全く似合わないにおい。 不快だ。 だけど、笑顔を浮かべる。 俺達は“親友”だから。 「今日はありがとな。 千種に祝ってもらえて、すっげぇしあわせだっ。 これからも親友でいてくれよ」 「おう。 当たり前だろ」 ゴチッとグータッチをして、笑い合う。 笑って見えるだろうか。 いつもの顔で笑えているか。 それだけが心配だ。 今、着ているこの服、あの子の趣味か? 似合ってねぇよ。 センスねぇな。 新婦のセンスの押し付けか、それとも、匠真が合わせたのかは分からないが、全然似合っていない。 腹の中は真っ黒なことばかり。 顔に滲み出てしまいそうだ。 貼り付けた笑顔に、しあわせそうな本物を返す親友の話を聞く。 「千種の結婚式は期待しとけよ。 泣かせるスピーチすっからな」 「気が早ぇよ」 「祝い事は早くても良いんだよ。 今日は泣かされたからな」 「匠真が勝手に泣いたんだろ」 「千種が…」 「おーいっ。 主役ーっ」 「ごめん、呼ばれたからちょっと行ってくる」 「ん。 適当に飲んでるから気にすんな、主役」 「ばーか。 主役は花嫁だよ」 匠真の視線の先には花嫁。 本当に、しあわせそうな顔で笑うんだな。 世界は、残酷だ。 壊れてしまえば良いのに。 そんな言葉を飲み込みたくて酒を煽った。 口から出しては絶対に駄目な言葉だから。 だけど、俺は……心の底からそう思っている。

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