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第4話

というか、認めてしまった…。 三鷹は言い触らしたりするような奴ではない。 だけど…。 テーブルの上で握り締めた手をただただ見詰めた。 「俺に、しとけよ……」 ガヤガヤと賑やかな中、芯のある、だけど弱々しい声が耳に届いた。 俺にしとけ…? 「三鷹…?」 こちらを見る目は、まるで自分のようだ。 希望を手離そうとする目。 それでも、手離せずにいる目。 あぁ、気が付かないフリをしていたんだ。 「なんで、一ノ瀬先輩ばっかり…」 「……それは…、匠真のせいなのか…」 「…分かってますよ。 けど、狡い。 好きになる人を選べたら良いのに。 好きになってくれた人を好きになれたら良いのに…」 三鷹の視線が主役へと動いた。 寄り添いそう笑い合う夫婦。 誰が見ても分かる、しあわせ。 自分は手に出来なかったもの。 「あの人達みたいに」 本当にその通りだ。 世の中は上手くいかない。 そうなれば良いのに、なんて思ってもその通りにはならない。 三鷹の言う通り、好きになってくれた人を好きになれたならどんなに良いか。 この気持ちを殺さなくて良いのが、どんなに良いか。 本当は、殺したくない。 匠真が大好きだ。 好きだ。 新婦にだって負けないくらい大好きだ。 なのに……殺すしかないんだ。 ごめん、ごめんな。 何度も自分に謝った。 だけど、それは虚しくなるばかり。 しあわせだって顔で笑ってる匠真の隣にいたかった。 だけど、あの子の隣だから、あんな顔が出来るのも知っている。 “親友”と“恋人”。 その違いを痛いほど痛感している。 「だから、奇跡なんだろ。 俺は、文系じゃねぇから上手いこと言えねぇけど、……なんつぅの、運命の赤い糸って、そもそもそれに気が付かねぇと意味ねぇじゃん。 お互いが気付いて、お互いが近付かねぇと……繋がってるだけでしかねぇんだなって思う」 「残酷ですね」 三鷹の言葉は自分の心を生かそうとしてくれる。 親友ではなく、後輩が。 「でも、一方通行じゃこのザマだ」 誰でも良い訳じゃない。 誰かに好かれたい訳じゃない。 他の人ではなくて、匠真が良い。 匠真があの子しか駄目なように、俺も匠真しかいらない。 なのに…。 嘘の言葉を並べた祝辞を読み、嘘の笑顔で門出を祝福した。 最低だ。 今日が大っ嫌いな日になった。 グッと涙を堪える。 泣いてはいけない。 今日は、お祝いの日だ。 自分の気持ちなんてどうでも良い。 なのに、隣から鼻を啜る音がした。 「なんで三鷹が泣いてんだよ……」 ボロボロと男らしく泣きはじめた。 「ちょっ、泣くなよ…っ」 「あ、八月朔日が三鷹のこと泣かせてる」 「ほんとだ。 三鷹、大丈夫か」 「ちげぇって…。 おい、三鷹…」 ボロボロ泣きはじめた三鷹に、視線が集まる。 その中には一ノ瀬のものも。 手拭きを押し付け涙を拭うが三鷹の目からは次から次へと涙が零れるばかり。 「一旦出よう…」 「泣き、止むから…。 先輩はここに、いたいでしょ」 「良いって、」 三鷹を立ち上がらせると、腕を掴んで外へと誘導した。

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