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「今日も焼きそばパン、狙ってんの?」 「!」  昼の購買前の賑わいの中で突然話しかけられて、飛び上がりそうなほど驚いた。 「ほら、前進め。買えなくなるぞ」  桐人にガードされながら前に進む。スムーズに最前列まで進めて、焼きそばパンを手に入れた。オレのすぐ後で桐人はカツサンドを買っていた。 「…ありがと。…桐人…」  ちらりと見上げながら言ってみる。オレは覚えてるよ、の小さな表明。 「思い出してくれた?」  真っ直ぐ見下ろされてドキリとした。桐人、やっぱり覚えてたんだ、オレのこと。 「あ…、えっと…。名前でやっと分かった…感じ…。だ、だってほら、メガネ、かけてなかったし、前は。せ、背だってすっごい伸びてて…っ」  自分でも何をそんなに、と思うほど必死に気付いてなかった言い訳をしている。 「はは、いいよ。そんな顔すんなよ。別に気にしてないし」  笑ってくれた…っ  今度もやっぱり不思議なくらいホッとした。  教室へ向かう廊下を並んで歩く。 「桐人は? 桐人はいつオレに気付いたの?」 「1年の時、購買で転けそうになってたのを支えた後、かな」  少し首を傾けて、桐人が応える。 「あ、あの時? 気付いたなら声かけてくれれば…」 「でも知希、全然俺に気付いてなかっただろう?」  長身の桐人に見下ろされながらそう言われて、言葉に詰まった。  低くなった声で名前を呼ばれるせいもあるかもしれない。元々オレたちは名前で呼び合っていたし、自分だってそうしたくせになぜか鼓動が速くなる。 「責めてるわけじゃないよ、知希」  俯いたオレの背中を、桐人がポンとたたいた。 「それよりさ、俺ら何友って事にしとく?」 「え?」 「1年同じ学校にいて接点なかったのに、突然名前呼びとか親しかったら不自然だし。でも本当の事を言うのもなんか、って思うし。それとも今友達になった事にして名字呼びにする?」  当時、両方の親から、正式に決まるまでは再婚の話は誰にもするなと口止めされていた。  あまり周りに聞かれたくない話、という事で少し顔を寄せて話すから、余計に意味の分からない動悸がする。 「や、でもオレたぶん名前で呼んじゃうし。だって名字で呼んだことないじゃん。だから、えーっと…、ゲ、ゲーム、とか…?」  実際ゲームはしてたし。 「そうだな。ゲームのイベントで会って友達になった事にしとこうか。プライベートは話してなかったから、学校同じなの気付かなかったって事で」  ふわりと微笑まれて胸がザワザワする。  教室に着くと、お互いの友達が「あれ?」という顔でこちらを見た。  さっき話した設定で説明すると、友人達は「へえ」とか「ふーん」とか言っていた。 「なんだよ、知希。そんなこと全然言ってなかったじゃん」  そう邦貴につっこまれて、ちょっとびくついたけど「まあまあ」ってなんとか誤魔化した。  ああ、これで普通に桐人に話しかけられるんだ。  あれ? 桐人、この展開を考えてくれてたって事?  打ち合わせてなかったら、たぶんオレはうっかり昔のことをそのまま喋ってた。  それか、いつまでも桐人に話しかけられなかった。  てゆーかオレ、すでに怖気付いてたし。  良かった。桐人が話しかけてくれて。  オレの友達と桐人の友達。毛色の違う二つのグループ。でも割と話も盛り上がって、昼休みはあっという間に終わった。  5時限目が始まって、あ、と思った。  桐人の連絡先、訊かないと。  でもどうすればいい? 設定だとゲーム友達だから、連絡先を知らないのはおかしいし。  てことは他の友達にバレないように2人で会わないといけないって事か。  そんな事をぐるぐる考えていて、授業は全然頭に入ってこなかった。  どうしよう、どうしようと思っている間に放課後になってしまった。  桐人を呼び出さないと。  でもどうやって?  

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