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 それから、念願の連絡先を交換して、他愛のない話をした。  マップを開いて、桐人の今の家を教えてもらった。 「近いじゃん。やった! 今度遊び行っていい?」 「いいよ。うちも別に何もないけど」 「そーゆーとこ、マネしなくていいから」  喋ってると5年前を思い出す。  それぞれの親に連れられて、初めて一緒に食事をした時のこと。  桐人のお父さんがゲームを買ってくれて、「2人で遊びなさい」と言われて桐人の家で2人で留守番をしたこと。 「オレさ、普段家ではゲームは1日2時間までって決まってて。でも桐人とだったらその制限なしで遊んでよかったから超楽しみだったんだよねー」 「なに? 俺をダシにしてたってこと?」  ちらりと流し見られて、また心臓が跳ねた。 「ちっ違うよっ。そーゆー意味じゃなくてさっ」  思わず覗き込んだメガネの奥の瞳が一瞬見開かれて、それから笑みを刻んだ。その一連の様子が、まるでスローモーションのように見えた。 「ウソウソ、大丈夫。分かってるから。それに俺も楽しかったし、あの頃」 「ほんと…?」  ほわっと身体の力が抜けた。楽しかったのは自分だけじゃなかったんだと思って嬉しくなった。 「あ、そろそろ帰んねーと」 「え、もう?」  時計を見て言った桐人を名残惜しい気持ちで見ると、オレを見返した桐人がまたふっと笑った。 「帰って晩飯作んねーと。うちも親、再婚してないから」 「桐人、料理できんの?」 「まあそれなりに。必要に駆られてってやつだけど、結構好きかな」 「へぇ…」  知らなかった、桐人のこと。  一つ知った、桐人のこと。 「今度食べにくる? 大したものは作れないけど」 「え、いいの?」 「いいよ、いつでも」  立ち上がりながらそう言った桐人を慌てて追いかける。 「ここでいいよ。またな、知希」  玄関ドアを開けて桐人が言った。夕方の傾いた陽の光が、桐人のメガネに反射した。 「うん。また」  ドアを押さえたまま、階段を降りていく桐人を見送った。  自転車に乗って去っていく、広くなった背中。 「速っ」  あっという間に見えなくなってしまった。  

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