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学年始めのお約束の各種検診。
内科、眼科、聴覚検査。今年度の締めくくりは歯科検診だった。その検診の結果が書かれた紙が、帰りのホームルームの最後に配られた。
「あーあ。虫歯だって。しかも2本も」
「邦貴、重いし」
嘘泣きしながら抱きついてくる邦貴の腕をぺしぺし叩いた。
でも邦貴はがっしりホールドしてきて離そうとしない。
「知希は? やっぱ無いのか? 虫歯」
邦貴が大きな手でオレの顎を下からぷにっと掴んだ。
「無いよーだ」
ふふん、と言ってやると、邦貴を含めた友人たちが「羨ましい」と唸った。
「おー! 遠野も無いじゃん、虫歯。いいなー」
桐人の検診結果の書かれた紙を覗いた友人が声を上げた。
桐人と桐人の友達とオレたちは、休み時間も放課後も一緒に過ごすようになって、もうずっと前からの友達みたいになっていた。
「あ、てことは遠野もあれ? 人の箸が触った物は食べません、てやつ?」
オレに抱きついたままの邦貴が桐人に訊く。こっちを見た桐人は、ほんの少し嫌そうな顔をした、気がする。
「まあ、そうだけど」
仕方なしに応えたように見える桐人に、
「やっぱり? こいつもそうだからさー」
と言った邦貴が、オレの頭をわしゃわしゃ撫でた。
桐人はその様子を一瞥して、ふいと視線を外した。
「俺、今日は用事あるから帰るわ」
そう言った桐人は、すいと教室を出て行ってしまった。
「邦貴ー。お前、遠野怒らせたんじゃねーの?」
「別におれ、遠野怒らすような事してねーよ。な、知希」
「え、あ…うん」
でも不機嫌そうに見えた。
なんでだろ。
帰っちゃった、桐人。もっと一緒にいたかったのに。
何が桐人の逆鱗に触れてしまったのか。
オレも帰りたい。
相変わらず邦貴に捕まったまま、オレは桐人の出て行った教室の出入口をいつまでもいつまでも見つめていた。
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