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お互いの連絡先を交換してから、オレたちは毎晩メッセージのやりとりをしていた。てゆーか、オレが毎晩桐人にメッセージを送ってる。
ほとんど質問。桐人の、引越してた先の学校の事とか。学校ってどこも同じだと思ってたけど、地域によって結構違くて、公立の学校なのになんでそんな違いが出るんだろうと思った。
あとは授業の疑問点。聞き逃した所や解らなかった所を訊くと、丁寧に教えてくれてありがたい。
先日、桐人が不機嫌そうに帰った日も、思い切っていつも通りにメッセージを送ってみた。すると拍子抜けする程いつも通りの返事がきて、胸を撫で下ろした。
桐人は、オレの友達の話とかを訊いてくる。
「黒田ってどんなやつ?」って訊かれたから、「お調子者でウルサいやつ」って応えた。邦貴が見たら怒るかもしれないけど、桐人からは「確かにそんな感じだな」って返事がきた。
メッセージのやり取りはやめ時が難しい。つい、いつまでも続けたくなる。桐人がいつもちゃんと返事をしてくれるから、というのもある。他の友人みたいに途中で放置されたりしない。だから余計にやめられない、止まらない。
本当は、顔を見て喋りたい。文字だけじゃ分からない事もある。
でも通話は母に聞こえてしまうからできない。うちの壁は薄い。
普通のボリュームにしてても、母が観てるドラマの内容は全部聞こえてくる。
それに何より、母にはなんとなくまだ桐人の事は話していなかった。
そんなだから、桐人と学校で会うと本当はもっと喋りたい。喋りたいけど、オレはうっかりしてるから『ゲーム友達』という設定を忘れてしまいそうで尻込みする。
桐人はたぶん、そんなオレの気持ちを解ってる。だから、学校ではあまり2人っきりでは話さない。そもそも学校ではいつも、邦貴や桐人の中学からの友人の高橋 がオレたちのそばにいる。
まあ、その方がいいと言えばいい。桐人と2人だとオレは周りが見えなくなる時がある。
…なんでかは、やっぱり分かんないんだけど。
そんな風に思いながら、日々を過ごしてた。
それは、いいバランスだった、はずなんだ。
昼間学校で会って、みんなと一緒に他愛ない話をして、夜はメッセージのやり取りをする。
でも最近、ちょっと物足りない。ちょっとでいいから、桐人と2人で話したい。
そう思うようになって、ほんの少しイライラしてる。
帰りのホームルームを聞き流して、いつもの放課後がくる事にオレは僅かな苛立たしさを覚えていた。
「なー、知希、帰りどーする? どっか寄る? つーか小遣いもらった?」
邦貴がガバッと肩を組んできながら訊く。
「もらってなーい、から、どこも行けねーよ、オレはー」
「じゃ、公園コースだな」
そう言った邦貴はオレの頭をわしゃわしゃ撫でた。
公園かー。やな訳じゃないけど。
チラリと桐人の席の方を見た。
邦貴たちの事はもちろん好きなんだけど、でも正直ちょっと煩わしい。
…そう思った自分に驚いた。
夕方の公園。花壇の縁 に座って、みんなでどうでもいい話をする。
それが楽しかったはず、なんだけど。
近くのスーパーで買った激安のペットボトルを開けた。
謎のケミカルな味がする。
邦貴がオレと桐人の間に座ってるから、桐人が見えないし話もできない。
桐人の前に立って話している高橋はよく見える。
いいな、高橋。桐人と喋れて。
よく分からないぬるっとしたものが、腹に溜まってくる感じがした。
「何ぼんやりしてんだよ、知希。眠 ぃの?」
隣に座っている邦貴が、オレの肩を抱いてぐらぐら揺らした。
「あー、うん。ねみーかも。帰るわ、オレ」
ちょうどいいやと思って、そう応えて立ち上がる。飲みかけのペットボトルをカバンに突っ込んだ。
「あ、じゃあ俺も」
桐人もそう言って立ち上がった。
この公園からお互いの家は同じ方向じゃないから、一緒には帰れない。
残念。
「そっかー、じゃ今日は解散にするか。おれも帰るわ」
邦貴のその言葉でみんな「そーだな」とか言って立ち上がる。まだ話し足りないやつらはどっか移動するらしい。
「行こうぜ、知希。じゃあまたな、遠野」
邦貴がそう言って、桐人に手を振った。邦貴の家はオレと方向が同じだから、途中までは一緒だ。
自転車の鍵を外しながら桐人の方を見た。桐人もこっちを見ていた。
「じゃ」
短く言って、桐人は高橋たちと一緒に、自転車に乗って行ってしまった。
その背中を見送って、自転車のスタンドを蹴った。
心なしか、自転車が重い。
なんでかな、と思いながら漕ぎ始める。邦貴が話しかけてくるけれど「えー?」とテキトーに聞こえないふりをした。
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