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「生姜焼き、豚キムチ、ハンバーグ。どれがいい?」
「うわ、迷う。どうしよ」
「ハンバーグはロコモコとかにも出来るけど」
「あー、更に迷うー」
頭を抱えながら桐人を見上げると、見た事ないほど優しい目で見られて胸がギュッとなった。
お兄ちゃんの気分なのかな。
そう思った。
「じゃ、ロコモコお願いします」
「なんで敬語なの。OK、今日はロコモコ作ってやる」
今日は、てことは、また作ってくれるのかな。
なんて期待してしまう。
迷いなく歩き始めた桐人の後を、あたふたしながら付いて行く。ここのスーパーはあんまり入ったことがない。
「トマトは平気だったよな?」
「うん、好き」
頷きながら応えると、桐人がメガネの奥の目をほんの少し見開いた、気がした。
「玉ねぎとサニーレタスは家にあるし、後は肉だなー」
そう言いながら再び歩き始めた桐人を追いかけた。
スーパーは肌寒いから、ついくっつきたくなる。まあ、それだけじゃないけど。
精肉売場で挽き肉を選んでいる桐人の手元を覗くふりをして、半袖の腕が触れるギリギリまで近付いた。微かに感じる桐人の体温。
「知希、この前の俺の弁当の量どうだった? 多かった?」
「ちょっと多かった、かな」
「ふーん」と言った桐人が「じゃ、これぐらいかな」と合挽き肉のパックをカゴに入れた。手慣れてる。
「コーンスープは? 好き?」
「あ、うん。好き」
自分で近付いたくせに、至近距離で見た顔にドキリとした。
桐人の表情がいつもと何か違っていてそわそわする。
「牛乳と豆乳、どっちが好き?」
「んー、牛乳」
「じゃ、家にあるからいいや。後はコーンクリーム缶だな」
足取りに迷いがない。店内全部覚えてんのかな。
そう思いながら付いて行く。
目的のコーン缶もカゴに入れて、セルフレジで品物を流しているのを横で見ていて、「あ」と思って慌ててサイフを出した。
「桐人! これ! 300円」
「はは、忘れてても良かったのに」
「だめだめ! ちゃんと貰ってよ」
開いていた桐人のサイフに百円玉を3枚入れた。
桐人のサイフはポイントカードとかキレイに入ってて、大人のサイフみたいだった。
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